
カルロス・ゴーン氏 |
当たり前だろうと考える方もいるかもしれませんが、たとえば、士気を下げている、人員やコストを削減している、といったようなときに、いったいどうすれば社員たちの士気を高め続けられるのでしょう。ボーナスをたっぷりと与え、そして何もしなければどうでしょうか?
難しいのは、危機的な状況のときにも、士気を高め続けることです。たくさんの犠牲を払うことを強いてでも、士気を高めていくということが重要であり、そこを切り抜けられるか否かというのがそのマネジャーの腕の見せどころというわけなのです。これができないと人々はあなたと一緒に歩んでくれません。
複数の課題を持った組織を引っ張ることは、可能だと思います。しかし、複数といってもそれが百近いというのであれば、それはちょっと行き過ぎで、いくつかということであればいいかと思います。もちろんその中できちんと優先順位をつける必要はあるでしょう。一番目と二番目の間に差がないように見えるときにこそ、はっきりとその一方が重要であるということを示してあげる必要があります。
しかし、ここで最も重要なこと、ほとんどの場合、人々が忘れてしまうことが、モチベーションがどうなのか、士気がどうなのかということです。
たとえば日産では、わたしたちの発表が非常にショックを与えるものであるということはわかっていました。もちろん、そこからマイナスの反応が出ることも最初からわかっていました。再生なんかできるわけはない、製品はどうするのだ、技術はどうするのだ、これだけ人を削減してどうするのだ、などなどありとあらゆる議論が飛び交いました。もちろん大変な事態が待っているということは、簡単に想定できましたし、実際、たくさんの非難や懸念の気持ちが渦巻いていました。
しかし、ここで重要なのは成果や結果を出していくということなのです。成果や結果を出せば、そこから風向きが変わっていきます。人々の意識がそこにきて初めて動いていくのです。
結果や成果を早く出すためには、優先順位をつけることが重要です。そしてどんな懸念や不安があってもやり続けることが大切です。人々がどれぐらいやる気があるか、どれくらいの士気を保てるかというのが、すべての鍵となっていきます。
状況が良いとき、どんどん利益が上がっているときには、干渉する必要はありません。困難な状況に直面したとき、風当たりが強いとき、そして今まで長い間、番頭として勤めてくれた人たちに、すみませんと言って去ってもらわなければいけないような時こそ、士気をどう高めていくかが最も大きなチャレンジとなります。優先順位をつけることは重要です。優先順位の中をさらに優先順位をつけていくことも必要かもしれません。目と心を開いて、社員の士気がどういう状態にあるかということに目を配ってください。
- 出典:
- 国際女性ビジネス会議