わたしが音楽を通して一番伝えたいのは、「心」についてです。
今、子どもから大人に至るまで、わけのわからない殺人や、いろいろな事件が起こっていますよね。討論会や教育者たちの集まりに行っても、みんな「心」というものについて討論する時代になってしまいました。やさしさや愛情というもの、何かとても落ち着いたところでしっかりと存在している、目に見えないもの。そういったものを、クラシック音楽の中から感じ取ってほしいと思います。
わたしたちの世代についていえば、今、一番、道が分かれる時期だと思うんですね。たとえば仕事をしている人。海外に行っている人もいるでしょうし、会社の中で自分のポジションに悩んでいる人もいるでしょう。それに、子育てをしている人。それぞれが、一番大変だと思われる状況の中で、いろいろな方向を向いている時期だと感じます。
だからこそ、わたしたちの心のどこかに「今を乗り越えたい」という共通した気持ちが、きっとあるのではないでしょうか。それが、おそらく、わたしの音楽の中の強いメッセージにもなっていると思うのです。
ヴァイオリンから離れて、再び完全に感覚が戻るまでの7年間、「努力は実らない」とか「世の中には不可能ということもある」とか、ネガティブな言葉がどんどん浮かんできました。その言葉に引きずられて、「自分はいったいどこまで落ちるのだろう」と、ある種、自分を見放すしかないくらいの状態に陥ったこともありました。
それでもあと1年、もうあと1年、と続けてこられた理由は、わたしがボランティアで演奏をした時に、涙を流しながら、純粋に喜んでくれた人たちの目を忘れることができなかったからです。そして、「戻りたい」「戻れるんじゃないか」という希望が、本当に微かにあったからです。
それぞれの人生で、いろいろな夢を追いかけている人がいらっしゃることでしょう。あるマラソン走者の話ですが、とりあえず、今、目の前に見えている電信柱まで一生懸命走ってみよう。それを超えたら、次の柱まで頑張ってみようと思って走り続けているのだそうです。そうしたら、いつの間にか、夢にまで見たゴールが視野に入っていた。わたしも、自分自身の体験から、その気持ちをとても理解することができました。
わたしとしては、やっぱりクラシック音楽というものを、より多くの方々に聴いていただきたい。それによって、みなさんが自分を取り戻してくれたり、あるいはリラックス感を味わってもらえたり、そこで何かを得ていただけるのなら、こんなにうれしいことはありません。
もちろん、わたしも、「デュランティ」とたくさんの曲を奏でていきたいと思っています。