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夏休み。ビーチハウスでのバイトを終えた長女ミカが、3週間ぶりに帰って来た。肌の色は随分黒くなったし、髪型も変えたし、目にはカラーコンタクト。「玄関のバイオメトリクスは、ちゃんとわたしだと認識してくれるかしら」と心配したが、無事にドアが開いた。
「ただいま! やっぱりうちはいいなあ。そうだ、みんなに紹介します。新しい家族のロビンです。」
ミカの左腕には、すっかり日焼けした彼女と同じ茶色の子犬が……。
「新しい家族って、まだ飼っていいとは言ってないでしょ」と、母カオル。
「えー、ママったら冷たいな。可哀想な捨て犬を見放すの!? この子ね、夏休みで大にぎわいの海辺で、ひとり空を見上げてしっぽふってたんだよ。こんなちっちゃな子が。ビーチハウスがクローズしたら世話してくれる人もいなくなっちゃうでしょ。それに知ってる? ロビンはもう、お手だってできるんだから」
「わかったわかった。ロビン君、ようこそ。今日からここがキミのうちだよ」父リョウイチの歓迎を聴いてか、ちぎれるほどにしっぽをふる。わんわんわん。
こうして子犬のロビンが、家族の一員となった。
フローリングの上を所狭しと駆け回り、靴やスリッパをグチャグチャにかじったり、ベッドに飛び乗ったり。できるはずの「お手」もままならず、「おすわり」だって知らん顔。すぐにおなかを見せて、なでてもらうと、うれしそうに横目で見る。誰かがシャワーを浴びる音が聞こえると、海を思い出すのか、クゥーンクゥーンと切ない声を出す。
散歩に連れて出ると、好奇心旺盛でいろんな人の足元にじゃれつく。かと思うと、夕焼け空を見上げて、ただただ尻尾をふっている……。そんなロビンが一家の大切な存在になるのに時間はかからなかった。
夏休み最後の週末。みんなでお気に入りのベトナム料理のレストランへ出掛けることに。「ペットはご遠慮ください」の店だから、仕方なくロビンはお留守番だ。
「初めて一人になるんだね」と、子犬の頭をなでながら心配そうに呟くタケル。
「外出先からでもルームモニターで確認できるから大丈夫よ」
カオルの言う通り、家の中にはモニターカメラが設置されており、それぞれが持っているPDAからでもクルマの中からでも、部屋の様子を見ることができる。
大好きなベトナム料理を一通り食べ終わり、デザートのココナッツムースがサーブされると、ミカのは3度目のモニターチェックをした。首にかけているペンダント型の携帯端末に、部屋の中の映像が映し出され、リビング、キッチン、寝室、2階とあちこちチェックする。
「大変どうしよう。ロビンがいない!」