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【続き】
「こんな手書きのイメージはどうかしら?」タイトルをササッとペンで描くと、ディスプレイ上にも映し出される。「OK! 手書きの文字は味があっていいわね。じゃ、今日中に仕上げてデータを送ります」と、ナツミ。「ありがとう。もうすぐ街中のビルボードやネット上のバナーを、このキャンペーンビジュアルが埋め尽くすと思うとワクワクするわ」「PRが成功して、あのハルニレの森が守れますように」「みんなで応援してね。それじゃ、また」。
少しほっとして、カオルは思いきり伸びをした。「そうだわ! 同じビジュアルでTシャツを作って、売り上げをハルニレの森保護基金にしよう」。ひらめきをすぐ実行に移すタイプのカオルは、即刻アパレルデザイナーの夫リョウイチにつなぐよう、エージェントに指示する。「オフィスには、いらっしゃらないようです。PDAもつながりません」「そう。どうしたのかしら? まあいいわ、リョウイチさんが帰って来たら見てもらいましょう。子どもたちにもね」と、階下にあるリビングのeテーブルにTシャツプランを送信しておく。
ふと気付くと、時計はもうすぐ午後6時。「あら大変、夕食のことすっかり忘れてた!」。そろそろ帰ってくるはずの長女ミカに買物を頼もうと、スケッチブック端末で呼び出す。「なあに? ママ」「ミカ、ごめん。夕ごはんの買い物して来て」「何言ってんの、ママったら。仕事してると、ほかのこと全部忘れちゃうんだね。いいから下へ降りて来て」と、ミカ。
部屋のドアを開けると、スパイスの芳香が食欲を刺激する。階下のキッチンでは、リョウイチ、ミカとタケルが、おいしそうなグリーンカレーを作っていた。そうか、今日は土曜日。夫と子どもたちが夕食を作る日だった。