わたくしはマリア・カラスの足下にもおよびませんけれど、芸術という、美しいものを生み出していかなくてはならない人間にとっては、それだけの犠牲を払わなくてはいけないと常々思っています。
美輪明宏さんがよくおっしゃってますが、人生には「正負の法則」というのがあって、やっぱり犠牲を伴わなければ、いいものは生まれないの。犠牲というのはマイナス要因ですから、孤独にもなるでしょう、エネルギーを使うわけだから体力も消耗するでしょう。その上で成り立つものですから。そういった点で、共鳴するところがあるんです。
歌も、生まれてすぐにうたえるようになるわけではなくて、練習を積まないと本物の美声にはなりませんよね。そして、だんだん衰えていくわけでしょう?
花の一生もそうですよね。芽が出て、それがだんだん大きくなってつぼみの片りんが現れて、いよいよ咲いて、満開になって。その瞬間って、あっという間です。そして最後は枯れてしまう。
人生と似ていますが、輝いている時期というのは、ほんの一瞬だと思うんです。そのための積み重ねと、咲き終わった後の余韻。
マリア・カラスを花にたとえると?
もうこれはね、既に「マリア・カラス」という名前のバラがあるので、ほかにたとえようがございません。深い色合い。深紅のバラ。やっぱり、彼女の雰囲気が漂っている。朱に近いピンクから、だんだん濃い紅になっていきます。
女性の方には、彼女のファッションにもぜひ注目していただきたいですね。
大変品格があって、女性らしく、当時の最先端をいく「おしゃれの感覚」というものを再認識して、現代に取り込まれたらよろしいんじゃないかしら。
お化粧の仕方もそうだし、ヘアスタイルやお帽子のかぶり方とか、身のこなしがエレガントですよね。いまの時代、そういったものが欠けている方が大勢いらっしゃるんですよ。
そして、やっぱりオペラ。オペラというのはエンターテインメントですから、音はもちろんのこと、衣装や舞台美術、ライティング、そのすべてで3時間、4時間という長い時間、観客をくぎ付けにするわけでしょう? そういったドラマチックな部分をエッセンスとして、日常生活に少しでも活かされるといいと思います。
また歌曲というのは一曲一曲物語がありますから、改めて観たり聴いたりなされば、知性と教養も兼ね備えたワンランク上の女性になれますし、歌手の美しく上品な表情や動きも、とても参考になると思います。恋をするときもそうでしょうし、道を歩くときも、誰かに会うときだけでなくひとりでいるときも、意識することが大切なんです。そういったところから、「麗しさ」というものを身につけられたらいかがでしょうか。
マリア・カラスは53歳で亡くなりましたが、このような方をわたくしたちの時代に輩出できたことは、この上もない幸せであり、喜びとして受け止めております。
多くの魅力を秘めた歌姫の「至上の歌声」を、一人でも多くの方々に聴いていただきたいと、心から思っております。
『ハーパース・バザー』日本版記事から

写真:池田 保
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Powerful Lady
どんな女性でも、強さの裏には孤独感とか脆さを秘めているもの。パワフルに生きたマリア・カラスも、挫折感や心の痛みと闘っていたのではないでしょうか。
この深紅のバラは「マリア・カラス」とネーミングされた特別なもの。私自身が作った黒をアクセントにつけたガラスの花器に生け、彼女の芸術家としての強さと繊細さをドラマティックに表現しました。
假屋崎省吾
『ハーパース・バザー』 日本版 10月号 (8月28日発売)に掲載されます。