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【続き】
「なあに? お姉ちゃん。ボク今、バーチャル課外学習の真っ最中なんだ」
「邪魔してゴメン。父の日のプレゼントが決まらなくって……」
バーチャル学習とは、専用のヘッドギアを付けて未知の世界を仮想体験するもの。
タケルの通うコミュニティースクールでは、この学習法を積極的に取り入れている。
「ボクはもうプレゼント決めたよ」
「えっ? 何なの?」
「今、虹の橋を渡ってるところでね、ボクの周りにいろんな色の光がキラキラしてて、身体がフワフワ飛んでるみたい。このスゴイ仮想体験をそのままパパに送ってあげるんだ」
と、タケルが少し興奮気味に言うと、
「ふーん。タケルらしいプレゼントかもね」とミカが答える。
子どもたちがやりとりしている間に、雨が止んだことに気付いたカオルは窓を開ける。
「あら? まあ珍しい、虹が出てる。ミカミカ、虹よ、本物の!」
「えーどこどこ?」とミカも慌てて窓辺へ駆け寄った。
雨上がりの空には、見たこともないような大きな虹が180度の弧を描いている。
「ねえ、ミカ。これをパパにプレゼントしましょうよ。タケルが虹の橋を渡るバーチャル体験なら、わたしたち二人は本物の虹。きっとパパ、喜ぶわよ」
「じゃあ、消えないうちに急いで送らなきゃ」
ミカはすかさずPDAで虹を撮影し、「パパに送って」とエージェントに指示する。
しばらくすると、eテーブルに
Somewhere over the rainbow……
と曲が流れる。
リョウイチからだ。
「カオル、ミカ、タケル。みんなありがとう! 本物の虹もバーチャルな虹もすごくキレイだったよ」
と、満面の笑みを浮かべている。
「この曲は、パパからのお礼です」
街中の3Dビルボードで「Over the
Rainbow」をキャプチャーしたらしい。
「まったくうちの家族って、夢見がち……」とブツブツ言いながらも、誰よりも目を輝かせていたミカだった。
※「Somewhere over
the rainbow……」は、タイトル:「Over the Rainbow」、作詞者:E.Y.Harburgの詞の一部です。