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金平 敬之助さん
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口癖がいい人が、よい上司
- 金平
また話が変わり恐縮ですが、関東のある市に不思議な中学がございましてね。ソフトボールが強いんですよ。しかし、部活のY先生は一切叱らない、怒鳴らない。それでいて、なぜ強いんだろうか。その学校に転校してきた若い先生が、その秘密を探ったのです。そして、ある光景を見て、その秘密がわかったというのですね。
あるとき、練習が終わって道具の後片付けが始まった。このときA君という補欠の選手がてきぱきと手早く片付け始めた。それを見たY先生が選手全員に「おい、皆、すぐここに集まれ」と呼びかけた。「見てみろ。A君の道具のしまい方ってすごいだろう? うまいだろう? これを、お前たちも真似しなくてはいけない」って。
この瞬間、A君は組織の主役になったのですね。つまり、補欠を主役にしたというわけです。私の表現で言えば、A君を「瞬間主役」したのでしょう。転校してきた若い先生は、この光景を見て「強さの秘密はこれだ」と悟ったというのです。つまりあらゆる機会を捉えて一人でも多くの選手を主役にしているから、ということです。
部活のY先生は非常に無口な、大人しい人です。でも、つい最近まで選手をよく叱っていたそうです。それが私と会うようになって変わったというのです。「僕、しょっちゅう怒っていたけど、金平さんの話を聞くたび『よし、こんどは叱るのをやめよう』と思っていたけれど、やっぱり怒っていました」と、こんなことを言っていたこともあったんですよ。3回くらい私の話を聞いて、「やはり、金平さんの話を素直にやってみよう」って決意したらしいのです。
私はそんなときこんなアドバイスをした覚えがあります。「難しいことを考えないで、三文字でいいから、『すごい』とか『えらい』とか『やった』とか、『ブラボー』でもいいから、何か、褒め言葉を口癖にしたらいいですよ」って。「口癖がいい人が、良い先生、よい上司になるんです」とも言いました。
- 佐々木
確かに、その通りですね。
- 金平
そうしたら、その無口な先生が、部活のとき、ブラボー、ブラボーって言い出したらしいのです。すぐ「ブラボー先生」というあだ名がついたそうです。「ブラボー先生」になって、何より、うれしいのは気がついたらチームが強くなっていたというのです。
さらに、このY先生については信じられないような話があるのです。私は部活の先生方に「練習しない。試合ばっかりする」部運営をしたら、といつもすすめています。
「練習なし」といってももちろんウォーミングアップは必要ですよ。同時に、私は「補欠をつくらない」部運営をしたら、とも言い続けています。50人いたら2チームつくったらいいじゃないかって。Y先生は大人しい人ですけど、私の話に共感したこともあってでしょう。実に大胆な、信じられないことを実行なさったのですね。市のソフトボール大会の役員関係者に頼んだのです。「うちは皆、ソフトボールが好き。選手が多いから2チームできるから、2チームとも大会に出してくれ」って。
「冗談を言っちゃいけない。高野連だって、2チーム出すようなことはやらない」と、当然最初は断られたそうです。だけどY先生はあきらめなかった。繰り返し熱心に訴えたらしい。「だって、生徒はソフトボールが好きで、ゲームをしたいんだから、やらせてくれ」と粘りに粘った。そうしたら奇跡が起きた。「2チーム出していい」と許可が出たというのです。
私は、高野連が「100人部員がいたら、4チームつくってそれぞれ甲子園を目指していい」ことにしたら、高校野球が盛り上がるのに、と思っているのですが。でも、それは夢のまた夢。絶対不可能と決め込んでいるのですが、それをY先生は実現させたのですからすごいと思いませんか。
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