ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第117回 岩切茂さん

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建築家・株式会社TEAM IWAKIRI JAPAN代表取締役
岩切茂さん
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五重の塔が自分のルーツだとは感じられなかったんです
- 佐々木
子どもの頃に、建築物に衝撃を受けたとかことはあったんですか? というのは、長女が10歳のときに「2分の1成人式」っていうのを学校でやってくれたんですね。大きくなったら何になりたいかって、作文を書いたりしたのですが、面白いことに、クラスの女の子20人うちの3人ぐらいが「建築家になりたい」って。建築家という仕事自体、私が小学校のときに考えたこともないと思ったんだけど、岩切さんも、お父さんもお母さんも別に関係ないし、どういうところで建築にいったのかなって。
- 岩切
それは、何かドラマを見たんじゃないですか? 自分では大きな選択をしたとは思ってないんだけど、とにかく、ものを作っていたかった、というのが一つ。二つ目は、高校ぐらいのときから、「ちょっと、どういうの? これ」って思ったことがあって。
- 佐々木
何にですか?
- 岩切
それは、修学旅行で京都とかに行って、五重の塔とか、いろいろ見るじゃないですか。そうすると、距離感がありますよね? で、ヨーロッパの建築とか、見るじゃないですか、古いお城でも何でも。そうすると、その距離感が一緒なんだよね。そのときに、「俺って何だろう?」って。
たとえば、音楽をやっているやつと一緒にいても、日本の古典音楽とアメリカの音楽とかいったら、圧倒的にアメリカのほうが近いわけですよ。だからその頃、ちょっと生意気なんですけど、僕、やっぱりアイデンティティーってなんだろう、自分ってどこに立っているんだろうっていうのがすごく気になりだしたんですね。
どう考えても、この五重の塔が自分のルーツだとは感じられなかったんです。で、何で感じられないんだろうっていうことをすごく知りたいっていうところから、建築の勉強をしたいって思うところにいったのが理由かな。
だって、たとえばベルサイユ宮殿があって、こっちに五重の塔があって、ローマのパンテオンがあって。「いや、僕は、やっぱりこっちの人だな。ここから生まれたんだな」って思えないんですよね。
今もイタリア人なんかと話をしていると、もう圧倒的に違うわけですよ。「コロッセオ、これがローマだ、これが俺だ」と彼らは言う。で、そういう目で日本の神社仏閣を見てるわけですよ。
それを、羨ましいのか、何なのか分からないけど、「俺、ひょっとして、何かちょっと欠落して育ってきた?」っていうのが、ありません?
- 佐々木
すごく分かる。
- 岩切
テレビのチャンネルの中の向こうのものを、同時に受け入れて育ってきちゃったもんで、自分の生きてきた空間の中に、そんなものはなかったし。東京のアパートで暮らしていたり、横浜の家で暮らしていたり。和室もあったけど洋室もあった、みたいなところで生活してて。挙句の果てに扉がガラガラって引き戸で横に開くとか、そんな空間で育ってきたもんだから。別に、悪いって言ってるんじゃないですよ。だから、自分が何なのかというか。
- 佐々木
やっぱり、時代的にスピードが上がって薄っぺらい中で、ごちゃまぜで、取っ換え引っ換えしながら生きてきている生活文化なんでしょうね。
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