恥の上塗り
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2004年2月7日
民主党の菅代表も岡田幹事長も、日本のことわざにはとんと弱いのでしょうか。自党の古賀潤一郎議員を学歴詐称問題で除籍処分にせざるをえなかった腹いせなのか、自民党の安倍幹事長の留学履歴に事実との相違があるとして追及したいようです。2年留学と書いてあるが、実際は1年だけだという話です。
みずからの浄化? それとも他党の粗探し?
留学歴を偽っている、あるいは自分に都合のいいように書いている議員はきっといると思います。うわさも聞きます。しかし自党の議員がそれで引っ掛かったからといって、他党の議員を洗おうというのは、いかにもさもしい根性ではありませんか。みずからを浄化することによって、もっと他党の範となるというのなら、潔いし、清潔な政党という感じもします。それが他党の粗探しというのでは、これは菅さんの品性をおとしめるものでしかありません。
もともとこの問題は、古賀さんの「疑惑」が出たときに、民主党幹部が対応を誤ったというものでした。「離党」ということでお茶を濁そうとしたのです。いってみればこれは自民党と同じ手法。民主党は自民党とは違う政党であり、だからこそ二大政党制を担える政党であると言いたいのに、自民党と同じ政党であることを暴露してしまったのです。政権党という看板ががちらついたばかりに、古賀議員の一議席を惜しんだのでした。
政治家が惜しむべきものは?
「名を捨てて実を取る」とも申しますが、政治は「名を惜しまなければならない」のだと思います。「名」とは大義と言い換えてもいいのですが、それを失ってはそもそも大衆を説得することなど不可能です。人を責める(たとえばアメリカのブッシュ大統領を責める)のに大義と言う言葉が何度も使われました。逆に言えば、守るときにも大義が必要なのです。そして福岡の一議席は「大義」ではありません。
その一議席を取ることがどれほど大変だったかは、相手が山崎拓さんですから想像がつきます。だから守りたい気持ちもわかります。ここで山崎さんが復活したら、それを破るのに何年かかるかわかりません。でもそこで実を取れば、名を捨ててしまうことになり、それが将来的にどれだけの禍根を残すかということに考えが至らなかったのでしょうか。
ツケは今年の夏?
先日もある民主党関係者とこんな話をしたところ、彼も「まったく恥ずかしいことだ」と苦りきっていました。安倍さんの話を聞いて、わたしが思い出した言葉は「恥の上塗り」でした。この二重の誤りのツケは決して小さくないと思いますが、みなさんはどう思われますか。