政権交代への途は果てしなく……
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2002年11月30日
海外から日本を見ると、政治ほど不可解なものはないということがよく言われます。
何せ日本はバブルが崩壊してから10年以上も景気が低迷しているし、今なお先が見えないし、銀行の不良債権問題はいっこうに解消していない。まさに「普通の国」なら、とっくの昔に政権交代があったはずだからです。
「既成の利害からの脱却なくして……」
ところがふと見ると、自民党から政権を引き継ぐべき野党がいません。野党第一党である民主党は、まったく精彩を欠いています。代表選挙で鳩山さんが勝ったものの、それで党内が一致するかといえば、幹事長人事をめぐってのゴタゴタ。何とか収めたものの、統一補選では惨敗。何の政治的状況もつくりだせないままです。
問題はどこにあるのか、なかなかむずかしいところですが、第一は党内の「イデオロギー」的な不和でしょう。民主党はもともと自民党左派から社会党右派まで含む政党なのです。安全保障問題ではどうしても党内不一致が出てしまいます。それだけではありません。税金や年金、国の改革、郵政改革などでも党内がまとまらないでしょう。それは依って立つ票の基盤が広すぎるために、利害が対立してしまうからです。このような漠然とした支持基盤では、よほど旗幟(きしょく)鮮明になるようなテーマがなければ、自民党と対決して民主党の色を有権者に訴えることはむずかしいでしょう。
地方自治体の選挙では、既成政党がらみの候補が続々と負けます。勝った候補は、ほとんど例外なく「改革」や「情報公開」を打ち出しています。私が住んでいる横浜市でも、きわめて若い中田市長が誕生しました。しかしこうした地方自治体の首長の流れに民主党はまったくいっていいほど乗れていないのです。それは民主党の基盤そのものが、多岐にわたるとはいいながら、実はやはり既成の利害のなかにとらわれているからでもあります。
有権者は改革を求めているのか?
もうひとつ大きな問題があるかもしれません。それは地方自治体レベルでは有権者は改革を求めるけれども、国政レベルになると、実は有権者がどこまで改革を求めているのか、よく見えないということです。国政で大幅な改革があれば、それは自治体などと違って生活に大きな変化が生まれます。税金の問題もそうですし、雇用の問題でも場合によっては国民生活を一時的に圧迫するようなことも起こり得ます。
だからあまり大きな変化を起こさない自民党が勝ってしまう(少なくとも負けない)ような気がするのです。自民党から出ている小泉さんが「改革なくして……」などと叫ぶのは安心して聞いていられるのだけども、あれがもし共産党あたりが「改革」と言うと、有権者の多くは首をすくめてしまうのかもしれません。
だとすると、民主党は自民党とほとんど同じ政策の枠のなかで「改革」を言うしかないということになります。それでは有権者に自民党と民主党の違いが見えなくなりますから、ますます民主党は影が薄くなるのでしょう。もし民主党に神風が吹くとすれば、小泉政権に大スキャンダル疑惑がかかって、小泉さんが退陣を余儀なくされるときでしょうか。つまりは「敵失」がなければ民主党が浮上するチャンスはほとんどないということかもしれません。もちろん有権者に「政権が交代することはいいこと」という意識が強くなって、何がなんでも民主党に政権を取らせようということになれば話は別ですが、それも今の状況では考えにくいと思っています。