「アメリカ」以外の選択を考えていますか?
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年11月22日
日本政府はイラクに自衛隊を派遣することにしています。先日もアメリカのラムズフェルド国防長官が来日し、派遣を念押ししていったようです。ところが9・11テロを起こした組織とされるアルカイダが、日本政府を脅迫しています。自衛隊がイラクに来たら、東京を攻撃するというのです。トルコ・イスタンブールでおきた爆弾テロが東京でも起きるかもしれないということです。
引くに引けない日本政府
アラブから日本に来ている人も少なくないのですから、テロリストが日本に潜入することもさほどむずかしくなさそうです。警察の目がやたらに光っている社会でもないのだから、爆弾を仕掛けることもできなくはないでしょう。ましてわれわれ日本人はテロに慣れていません。日本人が最近、経験したテロといえばオウム真理教の地下鉄サリン事件ぐらいですね。アパートの隣の住人が何をしているか、聞き耳を立てる人も多くはないでしょう。
その意味でテロ予告は私たちの不安をあおります。しかし、脅迫されてしまった以上、これで日本政府は引くに引けなくなってしまったのです。つまり現代において、一国の政府がテロに屈して行動を変えるということは、少なくとも表向きにはあってはならないのです。もしテロ攻撃が日本に加えられ、日本の市民に犠牲者が出れば、日本の政府は徹底的に犯人を割り出し、逮捕し、処罰しなければなりません。それが国民を守るということだからです。
「だれもコントロールできない」
それにしても紛争というのはこうやってエスカレートするものだと思いました。同時多発テロがあって、アメリカがアフガニスタンに続いてイラクを攻撃し、いったんは崩壊したかに見えたイラクの親フセイン勢力が盛り返して米軍だけでなく外国人に対して無差別に攻撃を仕掛け、そして日本を脅迫しているのです。こうなると、これまでアメリカのやり方に疑問を投げかけてきた人々も、やはりテロ組織を根絶することを優先しなければならないという気になってしまうのではないでしょうか。とかく弱腰になりがちな日本政府でも、脅迫を加えられたらむしろかたくなになるでしょう。いいか悪いか別として、こうやって当事者がコントロールできない状態に展開していってしまうのかもしれません。
世界の変容、アメリカの変質
先日、1962年のキューバ危機に関するロバート・ケネディの回想録を読んでいたら、こんなことが書いてありました。キューバを封鎖するというアメリカの方針について各国の理解を求めるくだりです。フランスのド・ゴール大統領は、アメリカが証拠写真を提示しようとすると「アメリカのような偉大な国が何の証拠もなしにそんな行動を取ることはありえないでしょう」と言って、証拠写真を見ることなくいち早くアメリカを支持する姿勢を表明したというのです。
これをイラク開戦前の状況と比べると、まさに雲泥の差です。あの当時はソ連というアメリカのライバルが存在し、キューバ危機は米ソの直接対決につながる危険性をもっていました。ところが今は、アメリカと対等にやり合える大国が存在しません。そのために一部で言われるようにアメリカが21世紀の新しい「帝国」として君臨するような状況が生まれています。ということは、基本的にはアメリカはますます傲慢になっていく可能性が大きいのかもしれません。私たち日本人は、それでもアメリカについていくのか、それとも別の道を探るのか、選択を迫られる日が来るのもそう先の話ではないかもしれないのです。自衛隊派遣はそうした議論の第一歩になるのでしょうか。