「敵に味方あり、味方に敵あり」
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年9月13日
小泉圧勝の予感がますます高まる自民党総裁選。最近、永田町や霞ヶ関でささやかれるブラックジョークをひとつ。
「自民党の隠れ小泉派の筆頭は誰だか知ってるかい」「いや、参議院の青木さんはカミングアウトしちゃったしな」「亀井静香さ」「なんで」「だって彼が一言しゃべるたんびに、小泉の支持率が1ポイントずつ上がっていくじゃないか」
もはや終わった自民党総裁選
自民党総裁選への興味が失われるにつれて、次の興味は解散総選挙の話に移ってきました。一つ目の興味は、すっかり既定路線となっている10月解散、11月総選挙があるのか、ないのか。二つ目は、合併する自+民党はどこまで勢力を伸ばせるのか、ということです。
一つ目については、来年はいずれにせよ衆議院の任期ですから総選挙はやらねばならず、そうなると衆参同時選挙ということになるので、公明党はこれに反対しています。現在の連立内閣を解消して自民党単独政権ができるという確信がなければ、ここは公明党の要望に応えるでしょう。ということは、やはり年内に総選挙をやるということですね。
改革派になりきれない民主党
二つ目については、世論調査を見る限り、小泉さん対菅さんでは、これも小泉さん圧勝という数字が出ています。自由党と民主党がくっついたところで、それが政界にインパクトを与えるとは誰も思っていないからです。それに民主党が労組をバックにしている以上、ある意味で民主党自身も守旧派にならざるをえない部分があります。つまり小泉政権に対して、民主党こそが真の改革者であると胸を張るためには、ひょっとすると労組を敵に回すこともありえますから、そのあたりの折り合いをどうつけるつもりか、はっきりさせなければなりません。現在の菅さんは、そこをまだあいまいにしていると思います。
老兵は去り行くのみ
そうこうしているうちに、自民党の大物である野中さんが、現在の任期限りで引退すると表明しました。思えば、鈴木宗男さんの事件以来、野中さんの周辺はずいぶんと締め付けられていました。野中さんからの権力奪取が進んでいたわけです。そして今回の総裁選では、野中さんはとうとう橋本派をまとめきれず、青木さんは小泉支持を打ち出しました。そういう情勢を考えると、野中さんの引退表明が政界に激震を与えるとも思えず、結局は「老兵は去り行くのみ」に近いのではないでしょうか(もっともこれからいろいろなことを暴露するとすれば、そっちは楽しみですけど)。
いったい誰が改革派?
こうして見ると、これで小泉政権は安泰ということになります。改革の道はまだまだ遠いのですが、少なくとも国民としては、小泉さんに託す以外に現在の時点では選択肢はないと思っているわけです。景気が多少よくなってきているようですから(まだ確信を持つことはできないけれど)、これも小泉さんの支援材料です。
それでも、やはり現時点での問題点は、誰が改革派で誰が守旧派なのかわからないということでしょう。自民党内にもどちらもいるし、野党内にもどちらもいます。やっぱりここは、改革派と守旧派で大きく色分けしてもらいたいと思うのです。そのためには、自民党を割ってくれるのが一番わかりやすいのですがねえ、小泉さん。