北朝鮮、6カ国協議受け入れ。見せつけられたロシアの外交力
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年8月2日
あれだけかたくなに日本や韓国との協議を拒否してきた北朝鮮が、ロシア外務省に対して、アメリカ、中国、韓国、日本、ロシアを入れた6カ国協議を受け入れる意向を示しました。アメリカとの二国間協議にこだわってきた北朝鮮に対し、アメリカは韓国や日本を入れた協議にすることを主張し、それを北朝鮮に仲介してきたのは中国でした。
しかし、中国の仲介も功を奏さないでいたところに、ロシアが乗り出してまとめたという形になりました。北朝鮮に関してはロシアの外交力は、なかなかのものです。かつて沖縄サミットの時、プーチン大統領は北朝鮮を経由して沖縄に乗り込みました。当時のクリントン米大統領はこのサミットに欠席する予定でしたが、プーチンが北朝鮮の金正日首席と会って沖縄に来たため、急きょ予定を変更して沖縄に来ました。プーチンが外交力を世界に見せつけた一幕であったわけです。
日本が負うロシアへの借り
今回もこれで秋に6カ国協議が実現すれば(具体的にどのようになるのかは、まだわかりませんが)、世界的にもアジア的にもロシアの存在感が増すことは決まりです。それに日本もロシアに借りができることになります。そして、その借りはどこかで返さなければなりません(言葉を換えれば、取り立ての日が来るのです)。シベリア開発の資金拠出という話なのか、それとも別の何かなのかはわかりませんが、日本が「イヤ」とは言いにくい状況になったということでしょう。
ソ連が崩壊して以来、ロシアの発言力は何かと弱まっていました。かつてソ連の衛星国であった東欧はこぞってNATO(北大西洋条約機構)という西側の軍事同盟に次々に加入してしまいました。経済的にもやはりいわゆる「西側」へ仲間入りしています。ロシア自身は、社会主義から離れて「ただの国」になってしまったのかと思っていたら、外交の舞台でやっぱり重みを発揮しています。
今年春のイラク戦争でもそうでした。国連安全保障理事会などでアメリカの単独行動を戒め、戦争に反対した国でしたが、アメリカはロシアに対してはあまり強く反発しませんでした。中央アジアでの石油開発やら去年のアフガニスタン攻撃における基地供与やら、いろいろなロシアに対する「借り」があったからでしょう。
北朝鮮問題=安保理常任理事国の試金石
こうしたプーチンの外交力を見ると、世界第2位の経済大国であり、アメリカに対して発言力を保持していてもおかしくはない日本との格差を感じてしまいます。冷戦時代とは違って、日本のほうがロシアよりも何かにつけて発言力があってもおかしくはないのですが、とてもとてもロシアの足もとにも及びません。核兵器を保有しているかどうかがその発言力の差になっているのでしょうか。
日本は、国連安全保障理事会の常任理事国へ「最短距離」にいるとされています。それは国際社会で責任ある立場に立つということですから、日本国民としては喜ぶべきことだと思うのですが、そのときに日本が発言力の「裏打ち」として何をすべきなのかを考えておかないと、ちょっと大変なことになるかもしれません。なにせ、常任理事国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)に日本が加わると、日本は唯一の非核国になるのです。非核国としての大義(あるいは正義)を国際社会にアピールし、しかも地域の安全保障について責任ある発言ができる国になるというのは、かなり大変なことのはずです。
北朝鮮問題で、日本が近隣諸国を満足させるようなイニシアチブを取れるかどうか、それが安保理事会常任理事国になれるかどうかの試金石かもしれません。昨年の小泉訪朝で、いいスタートは切った日本ですが、このところちょっと停滞ぎみです。9月の自民党総裁選、そして総選挙と国内政治日程が詰まっている日本ですが、外交の舞台もこの秋には一つの山場を迎えそうで、目が離せない状況になるのではないでしょうか。
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