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イスラム教の場合は「偶像崇拝」の意味を徹底し、ムハンマドの肖像を描くことも「偶像崇拝」になると考えられました。このため、ムハンマドの絵を描くことは許されないのです。ここが、同じ「偶像崇拝禁止」でもキリストやマリアの像を拝むキリスト教とは異なっています。
さらに、イスラム教徒の中の「原理主義者」と呼ばれる人たちの中には、「偶像崇拝禁止」を拡大解釈し、一般の人々の肖像画や写真まで禁止したり、アフガニスタンのタリバンのようにバーミヤンの仏像を破壊してしまったりするグループもあるのです。
どんな諷刺画だったのか
イスラム教徒にとって、これほどまでに神聖な存在であるムハンマドを描き、しかもそれが風刺の対象になっているということは、イスラム教徒にとって、二重の侮辱・冒涜ということになります。
諷刺画の中には、ムハンマドがターバンを巻き、そのターバンが爆弾になっていて、導火線に火がついているというものがあります。ムハンマドを「爆弾テロリスト」視している、というのがイスラム側からの批判です。
また、自爆テロを起こして天国にやってきた人々に対して、天国の入口でムハンマドが、「ストップ、ストップ、天国にはもう処女がいない」と言っている漫画もあります。これは、イスラム教の聖典である『コーラン』に、「天国に行けば処女たちが相手をしてくれる」という意味の文章があり、イスラム世界では、「ひとりの男性に対して72人の処女が相手をする」と信じられていることを皮肉ったものです。自爆テロ犯は、「聖戦で死ねば天国に行ける」と思っているので、「天国は自爆テロ犯があふれかえり、処女の数が足りなくなってしまった」という意味なのです。
イスラム教を信じていない人にしてみれば、いささか悪趣味ではあっても単なる諷刺画ということですむかも知れませんが、イスラム教徒にしてみれば、耐え難い侮辱ということになります。
ヨーロッパで諷刺画転載相次ぐ
デンマークの新聞とノルウェーの雑誌の掲載がイスラム教徒の怒りを買うと、そこは一筋縄ではいかないヨーロッパのジャーナリストたち。フランスの大衆新聞「フランス・ソワール」は、問題の諷刺画12枚を一挙掲載し、「私たちには神を風刺する権利がある」という見出しを掲げました。ただし、この新聞の経営者は、この方針に怒り、編集長は解雇されました。
それでも、ヨーロッパ各国の新聞は、次々に、この諷刺画を転載しています。イスラム教徒の抗議に屈して掲載しないことは、言論の自由・表現の自由を守れないことになる、というのが、掲載の理由です。こうしてヨーロッパ各国のマスコミが諷刺画を掲載したことで、問題は「ヨーロッパ各国対イスラム諸国」という様相を帯びてきました。まるで、キリスト教社会対イスラム社会という、「文明の対立」になってしまってきたのです。
かつてもあった『悪魔の詩』事件
ムハンマドを風刺して問題になったことは、かつてもありました。1989年、……
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