ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第87回 金平 敬之助さん

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金平 敬之助さん
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一人きりの卒業式
- 金平
また風景の話をしますと、行ったときにこの中学校の風景がすごくいいのです。要するに、まず事務長さんと校長先生と仲がいいんです。すぐわかるじゃないですか、二人を見た途端に。教頭先生とも仲がいい。また校長室に一般の先生が遠慮なく入ってくるっていう雰囲気があったんですよ。いい学校だな、とすぐ思いました。
そうしたら、7月にお会いしたとき、こんな話も聞きました。その校長先生が定年になった3月の、翌月の4月7日に、一人の卒業生ために卒業式をやったっておっしゃるのです。
家庭の状況が乱れていて、食事もまともにとっていない女子生徒。3年生ですが、ついに問題を起こして施設に預けられてしまったのです。そのために卒業式に出席できなかったそうです。施設に入っているときには、担任の先生と養護学校の先生が、2時間半かかるのに毎週1回励ましにすすんで行ってくれたそうです。その先生方が一番びっくりしたことは、一週間ごとに、その女子生徒の表情が変わっているって言うのです。やさしくなっている、明るくなっている、と報告するのです。
なぜ表情がよくなったのか。考えられるのは、食べ物をきちんと食べさせているということ。これしか考えられないと言っていました。日常生活をきちんとして、特に食べ物をしっかりとると子どもは変わるのですね。だから、「食育」って本当に大切だ、と校長先生はそのときあらためて気づかされたそうです。
施設から出てくることになったその子に、4月7日、新しい校長先生が校長室で卒業証書を渡すことに決めたそうです。それを聞いて教職員全員が立ち上がったそうです。「あの子は、高等学校には行かないだろう。人生、最後の卒業式になる。なら、卒業生全員にやったときと同じような卒業式をやってあげよう」
で、先生方が全員並ぶ。吹奏楽団も全員揃って演奏する。紅白の幔幕(まんまく)も張った。式次第も書いた。そのなかを母親とその子が二人並んで入ってきたときは参加者全員、涙が止まらなかったそうです。この話してくださった元校長先生も、自分のときの子どもだから卒業証書は自分から渡してほしいといわれて式に参加していたのですね。長年先生をしてきた。何十回も卒業式をしてきた。でも、このときの卒業式ほど感動したことはありません、とおっしゃっていました。
なぜ、そんな感動的な卒業式ができたかというと、私は、その学校の職員室の風景がよかったからといいたいのです。だから、先生方が心を揃えて立ち上がったのですね。すごくいい話だと思うのですが、この話は日常生活の雰囲気というか、職場の風景というか、そういうものがいかに大切かを教えてくれた気もします。
今日は私が喋りすぎた気がしています。反省しています。でも、お伺いした、佐々木さんのご子息の話なんか、すごく感動しているのですよ。ありがとうございます。
- 佐々木
(笑)ありがとうございます。楽しい話、うちはいっぱいありますよ。今日は、本当に、多岐にわたるテーマで、いい言葉を教えていただき、ありがとうございました。これからも末永く、どうぞご指導ください。奥さまにもよろしくお伝え下さい。
対談を終えて
久しぶりにお会いした金平さん。静かな雰囲気とは違って意外にも牛柄のかわいいネクタイ。対談でもお話しましたが、彼のご家族への想いが伝わってくる、チャーミングなお人柄。作家でいらっしゃるので、言葉を巧みに使いながら、深い懐でしっかり包んでくださる方という印象です。ビジネス界でも長く仕事をされた経験もあり、さまざまな社会事情を見て、環境の変化をみて、金平さんの心が、また、メッセージを編み出していらっしゃいます。示唆にとんだ対談です。ちょっと、じっくり読んでいただけたらと思います。金平さん、ありがとうございました。
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