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写真家・ジャーナリスト(医学ジャーナリスト協会会員)
伊藤 隼也さん
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医師のインフレ
- 伊藤
要するに、実はお医者さんにアクセスできる国なんて、世界中を探してもものすごく少ない、ごく一部なわけですよ。ほとんどの人たちは自分で自分の命や健康を守っている。
だから、日本人は平和ボケだとかいう話によくなるけど、ある意味では健康ボケで、いつでも自分の近くに医者がいて、最高の医療を自分に提供してくれているという幻想に浸って生きているわけですよね。
ところが医者や病院にも能力もあるし質もある。残念なことに、日本の医療っていうのは50年以上、まともな質の管理をやったことがないんです。
- 佐々木
えっ、どういう意味ですか?
- 伊藤
お医者さんの質管理をしたことがないんですよ。誰もしないんです。
- 佐々木
それは評価システムがないからですか。
- 伊藤
評価システムがまずないことと、それから医師免許は、更新制もないし、実技もないし、日本の専門医といわれるものは、極端なことを言えば、世界一軽いんです、その質が。
- 佐々木
実技がない、って考えたことなかったです。世界一軽い、といわれると……。
- 伊藤
例えば日本の医学博士号はすごいインフレだし、専門医の資格というのも、ふぐ調理師の免許よりも低いぐらいですよ。
- 佐々木
ええ、どういう意味ですか!?
- 伊藤
医者の免許と専門医の認定というのは、例えば、ふぐ調理師のレベルよりも価値がないんですよ。バリューが全然ない。
- 佐々木
本当ですか。
- 伊藤
だって、ないんだもん。実技もなければ、試験もない。あってもほとんど落ちる人もいないようなもの。やっと最近、一部の学会で、実際に自分で手術をしたビデオを提出してください、と。そして提出したビデオを審査するということが始まったけど、そもそも審査してる人間がその手術ができない人が一部にいる。矛盾だらけ。
- 佐々木
わからない人が見ても、審査できない。
- 伊藤
それに、本人が本当に手術したものかということを客観的に証明するものもないし。
- 佐々木
そうか。編集技術でいくらでも他人の手術を自分のようにビデオで作れる。
- 伊藤
だからいっぱい、最近も出てるじゃないですか、どっかの助教授が内科の専門医を取得するのに、足りない症例をねつ造したケース。ある病院にバイトに行き、1週間に1回しか来てないのに毎日診療したことにして、実は書類をねつ造したのがバレてクビになったなんていう。しょっちゅう新聞に出てますよ。あれって、悪いことをした人だけが問題なんじゃないんです。悪いことをできるシステムが問題なんです。
だから調理師免許の中で、最も難しいといわれる、ふぐ調理師免許っていうのは実技もあるし落ちる人もいるわけですよ。だからバリューから言えば……、
- 佐々木
毒の管理もしなきゃいけないしね。
- 伊藤
そうです。だって人が死んじゃうんだもん。
- 佐々木
そうですよねえ。でも医療だって、人が死んじゃうんだけど。
- 伊藤
だから、一番問題なのは、人が死んじゃうんですよ、医療は。その「人が死んじゃう」ということについてのいわばセルフマネジメントが、十分にできていないんです。
10/23
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