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出井伸之さん
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「売上高」って一体何だか分からない
- 佐々木
企業価値について、お尋ねしたいんです。確か、ソネットの上場の関連で、今までの大企業の決算書や企業価値の見方と、今のIT関連ベンチャーの企業価値は全然尺度が違うと言われていましたよね。私自身、現在の決算書だけでは企業はわからないと思っています。
- 出井
金融を扱っている人たちからは、「売上高」って一体何だか分からないという声をよく聞きます。取り扱い高もあれば、本当の売上もあり、収入もあるでしょ。それぞれギャップはあるよね。あとメディアと製造業が違うように、産業によっても売上の概念は全く違うよね。
製造業は売り上げがものすごく大きく見える。なぜなら自動車も作って、タイヤも買ってもらう。トレーディングカンパニーのところに自分の付加価値をつけて売っているわけだから。スズキ自動車の鈴木さんのお話はすごくクリアだった。彼のところは2兆円ぐらいの企業なんだけど、「実際自分の会社は2千億を切っている」と。「うちの会社は2兆円の会社だけど、付加価値が1700、800億ぐらいしかないから、それくらいの会社だと思ってやらないと間違えちゃう」って言ってました。
僕は、彼にその話をソニーで話してくれって彼に頼んで、随分しゃべってもらったんです。ソニーの売上だって、9兆円だっていっても、本当に自分が作っている付加価値を見てみたらすごく少ない。そこのところをメーカーでは触れないことが多いでしょ。じゃあ、サービス業の本当の付加価値は何か。今のバランスシートとかB/S P/Lでは表せないのかもしれないんだよね。
- 佐々木
まったくそう思うんですよね。それこそ、どれだけの人に支えられているか、愛されているかとか。
- 出井
感動を与えているかだとかね。
- 佐々木
将来の可能性や、もしかしたら株主の数だってバリューなのかもしれないし。
- 出井
要するに今の日本は、短視眼的な市場原理主義に毒されているわけですよ。だから現在の株主に配当するって言っているけれど、本当は将来の株主に配当しなかったらどうなるのかっていうふうに考えないといけないでしょう。そうすると今の、アクティビスト的に3年ぐらいのマーケットで見るのは明らかに間違っているんですよ。
基本的に企業にとって一番重要なのは未来の株主に投資することだと思うのだけれど、今の株主だけに全部投資しちゃったらダメなんですよ。20年前のソニーの株主と今の株主は全然違う。恐らく20年後は違うだろうと思うしね。次の時代も会社の価値を買ってもらえるように次の客をつくっていかないといけないし、株主が投資できるような研究開発投資をしなければならないわけです。でも今のバランスシートから解釈したら、何も変革できない。
日本の国が迷走しているのは、政府がプライマリーバランスを、過去の失敗を、今一生懸命つじつまを合わせようとしていることにあるんです。だってそうしたらバジェットを減らすしかないんだよね。だから全部がシュリンクする。過去と現在と未来の企業の価値観ということに、あまりピンと来ていないし。そこが僕は混乱の原因だと思っているんです。
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