今、有権者が選択を迫られる時
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年9月20日
阪神タイガースの優勝で道頓堀に飛び込んだ人が何と5,300人だとか。どうやって数えたのかわかりませんが、めちゃくちゃな数ですね。中には飛び込む気はなかったのに、落とされて水死した人もいたようで、優勝の巻き添えを食って気の毒というか……。「やるな」と言われるとやりたくなるのが人の常。とりわけ、関西地方はそういう反逆精神が強いのかもしれませんね。
関西といえば、自民党の野中広務さんも、引退表明という形で小泉首相に最後の抵抗を試みました。この姿に「老いの一徹」という言葉を重ね合わせてみた人も多かったのではないでしょうか。そういえば、自民党の抵抗勢力から辞めろ辞めろの大合唱を浴びている竹中大臣も関西出身だったと思います。竹中さんも叩かれれば叩かれるほど強くなるタイプかもしれません。
小泉マニフェスト vs 菅マニフェスト
関西人論はともあれ、政治の次の焦点は総選挙です。10月10日衆議院解散、11月9日投票日という線で動いているんだそうです。ここでの焦点は、小泉マニフェスト対菅マニフェスト。果たして10月に合流する民主党と自由党が、自民党にどこまで対抗できるのだろうかということですね。自由党の小沢さんが自党を解体してまで民主党に合流したのは、民主党を政権を担える党にしたいという一念からでしょう。逆にいうと、今の民主党では絶対にそうはならないから、ここで国民的な「風」を起こそうとしたわけです。かつての細川新党の「夢よもう一度」ということかもしれません。
政治的な駆け引きはともかく、民主党がこの18日にマニフェスト案を発表しました。小沢さんが「小泉政権では絶対にできないことをマニフェストで掲げるべきだ」とハッパを掛けたそうですが、その「革新性」はあまりないように思います。今の日本での大きな問題は、第一に景気、第二に財政再建でしょう。景気については、民主党は失業率を引き下げる(つまり300万人とか500万人の新しい雇用を生み出すということです)ことを目標に掲げました。小泉政権は06年度に名目成長率2%という目標を掲げました。これではそこに大きな違いがあるようには見えません。
どっちもどっちの再建案
また財政再建については、民主党は05年夏までに再建プランを策定と言っているだけです。もっとも小泉政権も「2010年代の初頭までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化」と、これまた悠長な話なのですから、どっちもどっち。政治的に一番難しい(つまり増税問題が絡む)ところは、両方とも先送りしたような感じなのです。
民主党のマニフェストに一言
まあ、両者のマニフェストについては、「ないよりはいいけど、期待値に達しない」というのが僕の正直な感想でしょうか。ただ、どちらかといえば、民主党のほうに注文をつけたいと思います。政権を取るために必要なのは「今何をすれば日本がもっと明るくなるのかという道筋」を明らかにすることでしょう。それは(亀井さんのように)小泉改革を逆戻りさせることではなく、小泉改革を超えることだと思うのです。今回のマニフェストではそれがどうも見えないという気がします。
高速道路を無料にする(それは税金で賄うという意味)などということより、日本という国の在り方、地方分権あるいは地方自治体の在り方、日本という国の将来の産業構造から教育や移民問題、税金や医療そして年金の在り方、そのビジョンがほしいのです。それをどう実現していくかという道筋(最近の国際政治で使われる言葉でいうと「行程表」)が出てくるのは、そのビジョンの後です。どうも民主党にその「覚悟」が欠けていると思うのは僕だけでしょうか。
そして、わたしたちが望むこととは
それでも11月には、わたしたち有権者が何を選ぶのかがはっきりします。自民党が勝てば、小泉改革にまだ期待する(少しずつだけど進んでいると評価する)ということでしょうし、民主党が勝てば、小泉改革の先は見えた(これ以上は小泉さんでは日本をよくできない)ということでしょう。ここからの1カ月半、わたしたち自身が本当に何を望んでいるのか、よくよく考えてみる必要がありそうです。