シュワちゃん、カリフォルニア州知事になる?
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年8月9日
政治家第一歩なるか、われらがシュワちゃん
今年の秋は自民党の総裁選挙、そして10月解散、11月総選挙という流れで、世の中は動いています。海の向こうのアメリカでは、カリフォルニア州知事がリコールされる見通しになり、その後がまを狙ってターミネーター、じゃなくてアーノルド・シュワルツェネッガー氏が立候補するそうです。圧倒的な知名度を誇るシュワちゃんだけに、これで当選確実だといわれています。
俳優で州知事を務めた人に、後に大統領にもなったロナルド・レーガンがいます(アジアではフィリピンで大統領になった俳優がいましたが、この方はいろいろ問題があって結局辞任してしまいました)。われらがシュワちゃんの場合は、彼自身がオーストリアからの移民なのでアメリカの大統領になる資格はありません。
彼自身は共和党を支持していますが、奥さんはケネディ大統領の姪御さんで、言うわずと知れた民主党支持者。夫婦間の政治的立場の違いはどう調整するんでしょうか。
日本のタレント候補とはひと味違う
それにしても、カリフォルニア州のグレイ・デービス知事(民主党)は支持率が急低下しています。一つは電力危機が予想されたのに適切な対応をせず、結果的に供給不足を招いてしまったこと。もう一つは、財政赤字への対処がいかにもまずかった(住民の負担増ばかり打ち出せば負けるに決まっている)ことです。
州知事の座を民主党から奪い返す絶好のチャンスとみて、共和党が知事のリコール運動を展開したわけですが、共和党の勝利を確実にするためにシュワちゃんが担ぎ出されたということではないのかもしれません。リコール運動を推進した共和党の議員が出馬宣言しているからです。まあシュワちゃん本人も政治が好きですから、日本のいわゆるタレント候補とはひと味違うかもしれません。
国のエネルギーを示す「移民州知事に立候補」
それにやはり、オーストリア移民の彼が苦労しながら有名な俳優になって(役者の技量としてはどうかと思うけど、『ターミネーター』は僕も好きでした)、功成り名を遂げたわけですから、まさにアメリカン・ドリームを体現した立志伝中の人物であるわけです。移民が多いカリフォルニア州だったら、彼に自分の将来を重ね合わせて見る人々も多いでしょう。
シュワちゃんの立候補に賛成するかどうかは別にしても、移民してきた人間が地方政治とはいいながら、州知事に立候補するというのは、国のエネルギーを表していると思います。新しい血が外から入ってくることによって、良くも悪くも緊張感が生まれ、その中から社会を背負う人たちが生まれてくるのではないでしょうか。別に政治の世界だけでなく、文化にも芸術にも同じことが言えるかもしれません。
異質を受け入れるということ
日本が「純血社会」であるという議論はまゆつばだと思いますが、文化的には割に均質的な社会であることは間違いないでしょう。第一、言葉一つとっても、全然違う言葉が通用している地域はありません。そして今、日本はこの均質性を大切にするのか、それとも異質なものを外の世界から導入するのか、という岐路に立たされているといえます。
それは年金とか医療とか、社会の重要なセーフティネットが高齢化の流れのなかで保てなくなっているからです。アメリカの制度がすべていいとは思えないけど、日本にはないエネルギーを持っていることも事実です。あなたの隣に中国人や韓国人、あるいはパキスタン人、バングラデシュ人が住み始めたら、あなたはそれを受け入れますか。みなさんのご意見をお待ちしてます。