「個人」が救う株式市場
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年3月15日
バブル崩壊後、株価が連日のように最安値を更新しています。こんなに下がってくると、企業収益が回復するといっても、3月31日現在の株価によっては、一生懸命リストラしてひねり出した利益があっという間に吹っ飛んでしまいかねません。企業経営者にとっては、まさにやってられない感じでしょう。
株価がなぜ下がり続けるのか、その答えは単純なことです。売りたい人に比べて買いたい人が少ないからです。いま日本の株を買いたいと考える人は、リスクを負えるだけの体力のある投資家ぐらいしかいませんが、実際のところ、そんな投資家は少ないはずです。だから日本銀行に株を買わせたらどうだろうか、というような議論が出てくるわけです。
竹中大臣が「株価指数連動型ファンドを買えば絶対に儲かります」というような発言をして問題になりました。これ以上は下がらないと言われた株価が、何度もその「危機ライン」をあっさりと越えて下がり続けている現状を見ると、よく現職大臣がそんな発言をしたものだなとあきれてしまいます。
証券業界と株価低迷
ただ、わたし自身は、日本の株価の根本的問題は、これまでの企業の持ち合いにもたれて株価を吊り上げてきた証券界の体質にあると考えています。株価は売る側と買う側のバランスの問題ですから、企業同士の持ち合いが原因で市場に流れる株が少なくなっているのであれば、ちょっとしたきっかけで株価が実態よりも高騰してしまいがちになるのです。日本の株は世界的に見て高すぎる、という議論は、それこそ何十年も前からあったのです。
株価が高すぎることに加え、証券会社が個人投資家をあまり熱心に開拓してこなかったために、日本の個人資産に占める株の比率は、先進国の中ではどこよりも低いのです。つまり、わたしたち個人は、自分の財産を銀行預金や郵便貯金、あるいは国債などの債券で運用しているだけで、株への投資は縁遠かったということです。
「個人」投資家が救う株式市場
しかし本来、株式市場というものが小口の資金を集めて企業に円滑に投資する手段である以上、個人投資家がどれぐらい参加しているかが、市場の成熟度合いを知る目安だと思うのです。そうした視点から見ると、日本の株式市場は規模こそ大きいものの、投資家の成熟度はまだまだ低いという感じがします。
現在のような状況になってしまうと、個人の株式投資家はどんどん引っ込んでしまいます。日本経済の将来の姿がある程度見えて、企業収益も増えるという見通しが立たないと、個人投資家は株式の世界に戻ってこないし、新しい投資家も出てこないでしょう。ところがそういった時期になると、証券会社は個人投資家の開拓などという手間のかかる仕事よりも、手っ取り早く稼げる法人相手の仕事に勢力を注いでしまいがちです。
たしかに、一件あたりの利益を考えれば、せいぜい百万単位の個人投資家よりも、何億単位の法人相手のほうが効率がいいに決まっています。だから薄利多売でもやろうとするのですが、個人金融資産が1,400兆円もあることを考えれば、個人投資家をどう開拓するかで証券会社の生き残りが決まるということも言えるのです。
このことを逆に言うと、われわれ個人は、消費者としても投資家としても、もっと自立して企業にどんどん注文をつければいいとも思うのです。たとえば株が下がっているから「買い時」だという判断をする個人投資家がもう少しいれば、株価もこんなに下がらずに済むかもしれませんし、場合によっては、いい会社の株は上がり続けるかもしれません。すべての会社が金融機関の債権放棄にすがっているゼネコンではないのです(現に儲かっている企業だっていっぱいあるでしょう)。日本の株式市場を救うのは、冷静に自分の責任で判断する個人投資家ではないでしょうか。ところで、あなたは株を持っていらっしゃいますか。