小泉さん、秋の陣は厳しいぞ
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2002年8月3日
一時は支持率の低下に悩んでいた小泉首相ですが、このところ支持率がやや持ち直してきたこともあって、元気なようです。国会答弁やら記者会見などにも、自信が垣間見えます。自民党のいわゆる「抵抗勢力」の人も、いまや主導権は小泉首相にあると認めているといわれています。
でも夏休み明けには、さまざまな課題も待ち受けています。内閣改造もその一つ。従来通り、定期的な内閣改造を要求する自民党に対し、「1内閣1閣僚」と唱えてきた小泉さんは抵抗してきました。とはいえ、自民党内で求心力を保とうとすれば、ある程度の人事は必要でしょう。そこで小泉さんは「派閥主導型」ではやらないとして、小幅改造にとどめたいとしています。
もし大幅改造になって、いわゆる改革派の閣僚がいなくなったりすれば、国民の間に「やっぱり小泉でも日本を変えられない」という雰囲気が漂うことは目に見えています。再び支持率が低下するでしょうし、そうなればまた支持率が回復する可能性は小さくなります。どの程度の改造を行うのか、それがとにかく秋の小泉内閣を占う重要なポイントになります。
でもこれよりも大きな問題が二つあります。一つはもちろん景気です。日本の景気は底を打ったと言われていますが、頼みのアメリカの景気がどうもおかしくなっています。今年の第2四半期は、プラス成長を保ったとはいえ、第1四半期に比べると急ブレーキがかかっています。エネルギー大手のエンロンの会計疑惑に端を発した投資家の不信感は、株価の急落という形になって表れました。
株価が安くなると、消費が抑えられます。そうするとアメリカの景気がさらに減速する可能性が高くなるわけです。こうなると輸出主導でよくなってきた日本の景気が悪影響を受けることは避けられません。この景気をどう立て直すのか。国民から言えば、自民党の改革も結構、日本政治の改革も結構、特殊法人改革も結構、でも景気はどうしてくれるの、ということなのです。
すでに来年度の1兆円減税とか、国債30兆円枠にこだわらないとか、景気がらみの話はでていますが、これだけでよくなるのでしょうか。規制緩和などはもちろん景気にいい影響を与えるでしょうが、効果が出るまでに時間がかかります。いずれにせよ、もし景気が再び失速するようなことがあれば、支持率の低下は免れません。
さらに大きな問題があります。アメリカがイラクを攻撃する可能性があることです。これに対して日本はどうするのでしょう。まず支援をするかしないか。国民の意見は大きく割れるはずです。支援をするとしてもさらに法律をつくらねばなりません。しかもアフガニスタンの「戦争」と違って、イラクとの戦争はもっと血みどろの戦いになる可能性があります。
なぜなら、アメリカがイラクを攻撃するのはフセイン政権を打倒するためであり、それは地上戦を抜きにしてはやれないからです。このような本格的な戦争に対して、日本はどのような態度を取るのでしょうか。昨年の9.11同時多発テロは、事件が事件だっただけに「対テロ戦争」に日本もできることをするという大義名分がたちました。しかしイラク侵攻は、そのような大義名分がたつでしょうか。
こうしてみると小泉政権の行方はかなり厳しいものがあります。でも小泉さんに代わって誰がいるのか、となるとこれまた心許ないかぎりです。民主党の代表選は、なんだか「候補乱立」で、ますます焦点ぼけになっているような感じがあるし、野党第一党としての資格を失いつつあるようにも見えます。やっぱり日本の将来は明るくなりそうもないのでしょうか。みなさんはどう思われますか。