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第7回 藤田理麻さん
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自分の直観に従う勇気 その3 |
進藤 |
んーっ、呼び込んだんですね。 |
藤田 |
彼らと話していたら、ある日「僕らが育った難民キャンプでは、本もノートもなかった。絵本なんかなかった」って。 |
進藤 |
それだっ!と? |
藤田 |
その時にピンときて。画家だから絵本なら作れると。 |
進藤 |
夢を見てから、絵本にたどりつくまで……。 |
藤田 |
半年くらいです。 |
進藤 |
不思議な流れですね。実際にチベットまで足を運ばれたという話も伺いましたが。 |
藤田 |
4回試みたんですが、毎回行けずにいたんです。で、5回目に母が「孤児のために絵本を描くって言っても、そのあなたが孤児に会わなくてどうするの?」ってお尻を蹴ってくれたんです。そしたらすべてがうまくいって、会えないと言われていたダライ・ラマにも急に会えたんです。
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進藤 |
行ってみると発見がありましたか。 |
藤田 |
みんなつらい思いをしているにもかかわらず、いい意味で心の平静を保っているんです。思った以上にたくましかったですね。彼らの宗教は排他仏教ではないから、自分より弱い者を助ける気持ちがとても強いんです。 |
進藤 |
みんな大変な境遇なのに、それでもですか? |
藤田 |
お金では買えない、その精神面の強さっていうか、それは子どもたちに会った時に感じましたね。日本人が失ってしまった何か大切なものを持っていますね。 |
進藤 |
孤児というと、どのぐらいの年齢なんですか。 |
藤田 |
もう赤ん坊から、上は18歳くらいですかね。 |
進藤 |
これからもその活動は続けていかれるんですね。 |
藤田 |
そうですね。できることがある限りは。ほんと少しですけど、続けていればいいな。続けていこうと思っています。 |
進藤 |
そして、首をながーくして個展を心待ちにしてるファンの方、日本にもたくさんいらっしゃいますが。 |
藤田 |
みなさん毎年、楽しみにしてくれてるからうれしいです。絵っていうのは不思議で、ある意味、子どもと一緒で完成させた時点でわたしのものではなくなります。 |
進藤 |
巣立って行っちゃう。 |
藤田 |
巣立って行くという物理的なことでもありますが、絵は絵の命を持っているんです。絵はね、やっぱり欲しいっていう方の手元にあるべきなんです。それを気に入ってくださった方のところで初めて幸せになれるんだと思います。
ファンのみなさんが作品を見てくれて、感想を言ってくださるのが一番うれしいです。 |
対談を終えて
10月末、東京都内で開催された理麻さんの個展は、初日から大盛況でした。今回のテーマは『Travel』。世界各国のワンシーンが描かれた作品には、もうすでに「売約済み」の印が輝いていました。会場には、高校生らしき女の子から熟年のご夫婦まで。そのみなさんのウキウキした表情は、会場をより一層華やいだものにしていました。
理麻さんの作品から受ける印象は、ただ「楽しい」とか「エキゾチック」などというような、単純なものではないように思います。心が揺さぶられ、不思議な力でグイグイひきつけられていく。そしてさらに、そこに浮かび上がる物語やメッセージを、より深く感じたいと、夢中になってしまうのです。
今回展示された作品の一つに、ニューヨークのブルックリン橋を描いたものがありました。マンハッタン島を背にした一組のカップルが、数匹のパグ犬を引き連れて橋を渡っている。そこには、崩壊したはずのワールド・トレード・センターも描かれていました。この絵をアトリエで拝見したとき、とっさに「なぜ?」と伺うと、ひと呼吸おいて、理麻さんからはこんな答えが返ってきました。「これはわたしのオマージュなの」と。
理麻さんからいただいた言葉は、時間が経つにしたがってジワジワと効いてきます。「自己を満足させるために邁進しても、焦りや不安はなくならない。何かのために自分を役立てることができると知ったとき、初めて心穏やかになれるのだと思う」。強く胸に残った一言でした。
ちなみに、今回ニューヨークで撮影してくださったのは、梨子田まゆみさんという女性。十年程前、勤めていた日本の会社を辞め、カメラマンになるべく、単身ニューヨークに渡られた方です。偶然にも、彼女は理麻さんの古くからのお友だちだということが当日発覚したりして……。
表現する女性たちの凛とした姿。それは、とてつもなくまぶしいものでした。
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