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金平 敬之助さん
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しぐさで、好きになる
- 金平
例えば、ハンカチ王子の斎藤佑樹投手のしぐさ。私は感心しているのですが、随所に見せるそのしぐさがいいのですね。「しぐさがファンをつくっている」と私は思いました。たとえば、今年の8月、斎藤投手が日本高校選抜としてアメリカに行ったときです。ヤンキースの球場で皆とベンチに坐っていた。そこに松井秀喜選手が突然現れたのですね。選手たちは「おうー」といって感激した。このときのシーンをご覧になりましたか?
- 佐々木
はい、見ました。
- 金平
あのとき、松井選手が選手と一人ひとり握手をした。隣の選手まで坐ったまま握手を受けていた。「大先輩に坐ったままはまずい」と見ていたら、斎藤投手で救われました。すくっと立ち上がって握手をしたのですね。で、「あっ」と思いました。これが一つ。
そして、ご存知のように、大勢のマスコミ関係者を前にして「大学に行きます」と発表しました。20分間、フラッシュをたかれながらの会見でした。終わったときに「ありがとうございます」と立って一礼した。このあとのしぐさがみごとでしたね。自分の椅子をテーブルの下に入れて退席した。自分のだけじゃありません。隣の人の椅子まで整えて出て行ったのです。隣は誰だったか知りませんが、おそらく学校関係者でしょう。その人は、あとで映像を見て恥かしい思いをしたでしょうね。野球部長だったら、これからの選手指導に困るだろうな、と一瞬心配しました(笑)。
でも、分かりますよね。大勢の記者に囲まれて、20分間フラッシュをたかれ続けての記者会見。本人は最高に緊張していたと思います。しかも18歳の若者です。でも、終わったとき、とっさにちゃんと椅子を整えられるのは、普段から心掛けているからなんでしょうね。
- 佐々木
そうですね。
- 金平
この「しぐさ」でまたファンが増えたのではないでしょうか。「よいしぐさ」というのは想像以上に人を惹きつけるのです。一方、「悪いしぐさ」をする人からは人は去っていってしまいます。
だから、伊良部秀輝投手〈元阪神タイガース〉がニューヨーク・ヤンキースに入団したときこんなことがありました。AP通信の記者が雑誌で伊良部投手に好意的に警告をしてくれたのです。アメリカで成功したかったら3つのことを守りなさい。まず「笑顔」。つぎに「Thank you」と「Good Morning」をかならず言うこと。そして一番大切なのは、「何か悪い結果が出たときに『悪いしぐさ』をしないこと」って。その雑誌が出て、たしか二日後ですよ。伊良部投手がヤンキース球場でKOされた。このとき観客に向かって唾を吐いたのは。本人は、したつもりはないらしいですけど、テレビの映像ではそういうしぐさに見えてしまいました。それで、彼はいっぺんに人気を落としてしまいました。
この「しぐさ」の怖さ、大切さを知っていたのが江戸の人たちなのですね。江戸の人たちが平穏無事の生活を送れていたのはなぜか。簡単に言います。正式のお巡りさんは24人しかいなかったといいます。当時の人口は約100万人。世界一の都市だったのに、こんな警察力で治安を維持できるがずはない。それでいて、「殺人事件は1年に1人しかなかった、切り捨て御免は100%なかった」といわれるくらい安全な町だった。じゃあ、なぜ治安がよかったのか。秘密が「江戸しぐさ」なのですね。しぐさをよくして事前にいざこざを防ごうとしたようです。
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