ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第57回 茂木 健一郎さん

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脳科学者 ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー
茂木 健一郎さん
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電車の音で、クオリアと出会う
- 佐々木
茂木さんの研究の中で今中心になっていることの一つに「クオリア」がありますが、これは「数値で測れないもの」であり、「感覚質」である、と書かれていました。ちょっと教えてください。このクオリアとの出会いがまた、面白くて、あるとき電車がガタンとなったときのこととか?
- 茂木
禅でそういうのがあるらしいですよ。音を聞いて悟りに達する、というのが。昔からあるらしいです。で、私の場合は、なんかこういうノートで、そうですね……あのころね、1回10ページくらい書いちゃったりしてましたね。アイディアを。
その10ページを書いている途中で、なんか突然、ガタンゴトンって聞こえている音が、たとえば周波数で分析して何ヘルツが一番多いとか、そういう数値の分析をしても、ガタンゴトンという音自体には、その質感自体にはたどりつけないっていうことに、一瞬のうちに気が付いちゃって、そうすると、それまでの科学のやり方っていうのが、このクオリアの問題についてはまったく通じない、ということが分かったんですね。
それはもう最大のショックなんです。実はお前地球人じゃなくて火星人だ、と言われたような、ものすごいショック。要するに、それまでの自分が信じてきた世界観が、ガラガラと音を立てて崩壊したみたいな経験だったんですよね。
だから、百人一首の中で権中納言敦忠(藤原敦忠)が詠んでいる歌で「あひみての のちの心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり」ってありましたよね。要するに、あなたと会った後のことに比べれば、昔は何も考えていなかったなあ、っていう歌なんですけれど、それと同じような感じで(笑)。
クオリアというものに出会った後に抱えている問題とか悩みに比べたら、それまでは何も考えてなかったに等しい、みたいな、それくらいのショックがあったんですよね。そのガタンゴトンに。
- 佐々木
それは何歳くらいのときですか?
- 茂木
31歳とちょっと、かな。ぐるっとまわるんですよ。いろいろな人に言われましたよ。たとえば、下条信輔さんっていう、カリフォルニア工科大学の先生に言われたのはね、「きみ、そういうのはね、ぼくは15、6歳のときに気が付いて、だから心理学者になったんだけれど、きみの場合はちょっと気づくのが遅いよね。」って言ってましたけれども。
- 佐々木
同感(笑)。
4/25
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