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松本 侑子さん
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やりたい仕事をするのが幸せ
- 松本
わたし、執筆に専念するために3年間、東京から逃げて、大阪へ行ったんですよ。
- 佐々木
本当?(笑)
- 松本
とにかく出版社以外からの仕事のオファーがすごかったんです。ファッションショーのコメンテータからジュエリーショーの司会まで、しょっちゅう電話がかかってくるような状態で、「東京にいたら静かに書けない」と思って。
- 佐々木
大阪に移ったっていうのは、賞を取った後ですよね。
- 松本
ええ。20代の後半です。東京にいると落ち着いて書けないと思って、大阪の山の近くの静かな所に引っ越しました。
- 佐々木
そうだったね。
- 松本
大阪へ行って『赤毛のアン』の全文訳をしたんですよ。「好きなだけ本が読めて、一番好きな執筆に努力できれば、それで幸せ」。それは今もわたしの人生観の基本です。
人生観は人によって違うので、あくまでもわたしの考えであって、お金が一番大事という人生観があっても、もちろんいいんです。だからほかの人には強制しないけれど、わたし自身は、そう決意して、大阪にこもったんです。逆に言うと、もう逃げ場がないところに自分を追い込みました。
今でも忘れられないんですけど、文芸誌の編集長から、「富めるタレント作家になってもいいし、清貧の文学作家になってもいい。作家は2種類あって、タレント作家で報酬のいいテレビに出てばっかりで人気はあるけど、あまり本を書いていない人もいれば、全然知られていなくて、はっきり言って出版社も大儲けしているわけじゃないけど、いい小説を書いている人もいる。そのどちらが悪いわけでも、いいわけでもないんだ。だからどちらになってもいいんだよ」と話してくださって、わたしは後の方が向いてるってすぐにわかった。だから迷いはありませんでした。
それで大阪に引っ越して、「ああ静かになってよかった、やっぱり来てよかった」と、幸せでした。全然電話もかかってこないし、一日中、本を読んで執筆と翻訳に打ち込めました。
- 佐々木
そうですよね。で、大阪に3年。
- 松本
3年間いました。
- 佐々木
今振り返っても、すごくいい、大切な選択だったんでしょう?
- 松本
本当によかった。仕事の合間には、一人で京都へ行って、お寺を歩いて。週末は、大阪、京都、神戸、奈良を歩いて、関西文化を知ってすばらしい経験でした。おかげで着物も好きになりました。一日中、原稿書きに没頭できる幸せも知った。でも、一人暮らしを15年間しましたからね。一人暮らしの作家は、孤独ですよ。大阪での3年間、一日どころか一週間、人と口を利かないこともざらでした。それくらい自分を追い込んでいました。
- 佐々木
今でもいっぱいそういう出演オファーが来るでしょう?
- 松本
いいえ。CM業界の人に、「テレビCM関係のプロフィールに、一切のCMはお断りしています」って載せてくださいと頼んだの(笑)。そういうあっせんの会社があるらしいんです。
- 佐々木
CM専門の?
- 松本
そういうデータを登録しておく会社があるようなんです。だからテレビも、文学以外の番組には出ません。お受けするのは、書評番組、あるいはコンピュータメディア、環境問題とか、自分が書いた本に関係するテーマ。それ以外の番組は基本的に出ないようにしています。
- 佐々木
イー・ウーマンは光栄ですね。こうして出演していただけて。
- 松本
わたしはかをりちゃんのことが好きだし、かをりちゃんを尊敬していて、応援したいから(笑)。今でも来ますよ、着物のテレビコマーシャルのお話とか(笑)。どうして作家が着物のコマーシャルなんだろう?って思うんですけど。
- 佐々木
だって、似合いますから。テレビやCMの仕事を受けない、ということは、講演もしない?
- 松本
講演はお受けしています。テーマが文学、翻訳、女性問題、それから自分の本で取り上げたテーマについての講演、シンポジウムは、締め切りが忙しくなければお受けしています。あとは図書館関連とか、インターネットのテーマですね。
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