ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第44回 アラン・ケイさん

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HP研究所シニア・フェロー、Viewpoints Research Institute プレジデント
アラン・ケイさん
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ITの可能性
- アラン
今でもできるんですよ。ちょっとしたお金の問題です。私はこれを「SMAM」――「small matter of money」と言っているのですが(笑)。
- 佐々木
SMAM! どんなビジネスでも使えそうな言葉ですね(笑)。
- アラン
もし今日、かつてのゼロックスのパロアルト研究所があったとしたら、私たちが作るのはそういうものでしょう。しかし30年前にパロアルト研究所で作ったコンピュータは、メインフレームとはかなり違ったものでした。より小さいというだけでなく、非常にパワフルにしたかったのです。もっとも、そのアーキテクチャーは現在は使われていませんがね。今日のアーキテクチャーは、パロアルト研究所がとった方法よりもずっとメインフレームに似ています。
発展途上国向けには、もっとはるかに進んだものにする必要があります。例えば先日、ヒューレット・パッカードは双安定性のプラスチックディスプレイを発表しました。このディスプレイでは、次の画像に変えるまで画像が保存されて、電力を消費しません。だからインクジェットプリンタを必要としないのです。
実際に5年後に販売を始めることも可能です。そのためには、設計や製造などいろいろな課題をクリアする必要があります。理想的なのは、シンプルで軽量な技術を使って発展途上国でマシンを製造できるようにすることです。
- 佐々木
地球の誰にもやさしいコンピュータですね。
- アラン
毎年、私は「他にすべきことがあるのではないか」と考えてみるんです。でも、この仕事よりもっと大事なことを思いつくことができません。子どもたちが私たちよりもさらにうまく物事を追求するようになる手助けをすることです。
- 佐々木
それが、今の社会で一番大切な課題だと思います。
- アラン
世界の状況を眺めてみて、解決すべき問題を見れば、子どもの教育が一番重要だとわかりますよね。そう考えてワクワクする人々は、モチベーションがいっぱいになります。ワクワクしない人々は、難しい問題も多いので興味を持たなくなるでしょう。ワクワクする高揚と必要性が困難を克服するわけです。
- 佐々木
情熱がモチベーションの源泉だと、私も思います。
- アラン
実際、このプロジェクトが成功する前に、私たちみんな死んでしまうでしょう? これは大事業なのです。何世代もの子どもたちに受け継がれます。印刷機がヨーロッパ中に広がるまで、150年かかりました。印刷機の発明に関係した人々は、最終的に印刷革命が起きるまで生きてはいませんでした。
だから何だと言うのでしょうか。私たちがこのプロジェクトが終わるまで生きている必要はありません。大事なことは、これをきちんと続かせることです。それが私のモチベーションです。
- 佐々木
今日は、崇高で、それでいてとても基本的なお話を伺うことができ、とても嬉しく思いました。ITを活用し、子どもたちがどんどん自分の発想を豊かにしていく社会。私たちも力を尽くしたいと思いました。夢もいっぱいですし、既にその一部がスタートしていることも嬉しいです。これからも引続きお付き合いください。今日は貴重なお時間、ありがとうございました。
対談を終えて
「コンピュータの父」と呼ばれ、世界中のIT関係者から神様のように尊敬されるアラン・ケイ氏。でも彼が神様みたいなのは、高性能の頭脳やIT技術だけではない。話しているときに感じる、地球の将来や子どもたちの未来を、良い方向へ育てようとする温かいエネルギー。「大人は子どもに教えちゃダメなんだよ。子どもの方が何でも知っているんだから」と、人の可能性を無限に捕らえる広い視点。それが遠くから導いてくれる神様みたいな感じなのだ。アラン・ケイを目の前に、まったく技術的な話をしなかったのですが、深い教育論になった気がします。楽しかった。またお会いできるのを楽しみにしています。
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