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平田 オリザさん
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緩やかなネットワーク社会を作っていかないと
- 平田
いろいろ話してきましたけれども、一番最初の話に戻るんですけれども、僕、商店街で生まれ育ったこともあって、ある種、今大切なのは商店街の復権だと思っているんですね。
商店街っていうのは、うちの隣が床屋さんなんですけど、昔の床屋さんっていうのは、散髪している人の横で子どもが漫画を読んでいて、その横でおじさん達が将棋を指していて、それが子ども達の監視係でもあり教育係でもあるっていう、まさにそういう重層的な空間だった。
銭湯もそうなんですけど、そういうところが、そこかしこにあって、一つの街を形成していたと思うんですね。原っぱもあるし。そこで他人の子どもでも叱ったりとかっていうことがあったのが、それがなくなってしまって。
別にそれは全然ノスタルジーでも何でもなくて、そこに戻れっていうんじゃないんですけど、そういう社会的機能っていうのが、文化人類学者に言わせても、社会学者に言わせても、必ずあるんですよね。
それが、市場経済の中でどんどんなくなっていっているので、それを現代社会に合う形で回復していくっていうのが、コミュニケーションデザインだと僕は思っているんですね。
だから、大学の中に強制的にカフェを作ったりとか、今、京阪電鉄と共同で、地下鉄の駅にも、それを作ろうとしていて。大阪の北浜の証券取引所の真下に、今度、新しい駅ができるんですけど、そこで普通にスターバックスとかみたいなカフェが入るんですけど、5時半〜7時半だけ、そこはずっと毎晩カフェをやっているんです。要するに議論をしている。30人ぐらいが。そうすると、証券マンが通って、「何で、あの人、いつも議論」……。
- 佐々木
歌声喫茶じゃなくて、議論喫茶みたいな感じ(笑)。
- 平田
そう。怪しい空間。でも、阪大がやるから、例えば金融工学の第一人者が来れば、証券マンだって参加するだろうし、例えば熟年離婚が話題だったら、中高年の人も来るだろうし、資生堂がすぐ近くにあるので、メーキャップ講座でもいいんですけど、何でも。そうすればOLさんも来るだろうし。そういう場所を今、地下鉄の真ん中に、まだこれは正式に決まったわけじゃないんですけど、作る準備をしているんですね。
そういう場所が、たぶん、街のそこかしこに出てくると、おもしろくなる、と。誰かが誰かを知っているような、そういう緩やかなネットワーク社会を作っていかないと。一致団結型は、もう、できないので。
- 佐々木
インターネットでも、やっぱりそういうことができると思ったし、そんな場所がほしいと思ったんですね。それに私達のオフィスは、今、表参道にあるので、イー・ウーマンユニバーシティっていうのを開催しているんです。それは今のお言葉を借りると、対話の場を作りたい、ということなんですね。インターネットの中でも、また表参道でも、場を作りたい。
ネットの世界でも、ただ電車の線路のように道がひかれていて、人ごみを作るというような駅のようなサイトはつくりたくない、と思ったんですね。そういった所で隣の人に「あなたはどう思う?」って意見聞かれても逃げたくなるんだけれども、ある程度、安全な空間であれば、知らない人とディスカッションもできると思ったんです。
イー・ウーマンは、バナー広告もなくて、そういう駅みたいな空間じゃなくて、今日の表現を借りれば、カフェみたいな空間なんです。そうすると、この雰囲気が好きで、ノックして、ドアが開いているんで、入ってきて、どこかのディスカッションを見た人は、誰でも発言をして参加することができる。何か、うっすら、平田さんの考えていらっしゃることと共通していると勝手に思って喜んでいますが……(笑)。
- 平田
まさに、そういうことです。
- 佐々木
今日はとっても楽しかったです。まだまだお尋ねしたいこともあるのですが、そろそろ稽古の時間と伺いました。お忙しい時間に、長時間有難うございました。これからもお話できることを楽しみにしています。ありがとうございました。
対談を終えて
とても静かで温かく、でもとても固い信念に基づいて話される平田さんからは、私にとって興味深い「コミュニケーション」「人と人の関係」についての示唆に富んだ深い洞察が次々と飛び出してきました。面白くて、そして、もっと知りたくて。また、私の考えと僭越にも、似ていると思われることがると喜び、とあっという間の対談でした。出張と演出の多忙なお時間を使っていただき、心から感謝しています。この対談を読んだ方が、彼の演劇の世界に触れ、毎日の生活に演劇を取り入れていただけたら、嬉しいと思います。
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