宴のあと
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2002年6月22日
日本のワールドカップは終わりました。まあ2回目の出場で、初めて勝点もあげ、初めて勝って、初めて決勝トーナメントに駒を進めたわけですから、上出来でしょう。でも一時は「ベスト4も夢ではない」と思った人も多かっただけに、ちょっと残念というか、拍子抜けというか。一方、韓国はベスト8に進出しました。スタンドを真っ赤に染めたサポーターたちのあの熱狂ぶりに、共催国として嬉しいような、うらやましいような複雑な思いをした人も多かったのではないでしょうか。
一時の熱狂はいつかは消えるものですが、小泉政権の最近の元気のなさは目をおおわんばかりです。支持率はピークの半分以下。最近では、支持率よりも不支持率のほうが高いのが当たり前になっています。会期を42日間も延長したのに、重要四法案のうち有事法制と個人情報保護法案は継続審議になることがほぼ確定しました。
小泉内閣は、自民党のなかの政治力学から生まれた政権ではありません。むしろ力学の一瞬の空白をついて、国民的支持を背景に生まれた政権でした。国民は、小泉首相にこの日本の停滞状況を打破してもらいたいと思ったのです。しかし昨年来、首相が掲げた改革は、遅々として進んでいるようには見えず、田中真紀子外務大臣の更迭を境に支持率は急落しました。
支持率を失えば、自民党の守旧派を抑えこむこともむずかしくなります。現に、郵政改革ではさまざまな妥協が行われ、本来の目的である民間企業の参入が実現しないかもしれません。競争的なマーケットにならなければ、改革の意味はなくなってしまいます。もちろん今の段階でそこまで否定的に見るのは尚早でしょう。しかし小泉さんだったら変えてくれると思った国民が、何となく「裏切られた」という気分になっていることは否めません。
支持率を上げるために、内閣改造が検討されているそうです。橋本元総理大臣とか、亀井さんとか、「実力者」を入れれば少なくとも自民党内の求心力を上げることができるという話が流れています。私自身はこれは最悪の選択だと思います。なぜなら、いわゆる党内の実力者と呼ばれる人々は、考え方から言うと「守旧派」に属する人々であるからです。国民から見ると、これでは「二重の裏切り」にしか見えないでしょう。
政治的にどれだけ現実味があるかどうかはわかりませんが、小泉内閣が起死回生の一発を狙うなら、「解散総選挙」しかないのではないでしょうか。それも自民党を割って「小泉新党」をつくるぐらいに腹をくくればチャンスがあるかもしれません。そうなると民主党もおそらく分裂せざるをえなくなるでしょう。そのときにこそ日本の政治状況が大きく変革する可能性が生まれます。もし小泉さんがそこまでできないときには、結局は歴史を変えられなかった元首相に名前を連ねるだけです。
いちばん恐ろしいのは、そのときに生まれる政治に対する国民の脱力感です。あれほど日本のしがらみをぶっ飛ばすと公言した首相でも、日本を変えられないとしたら、誰が日本を変えるというのでしょうか。国民がそのなかから「自立した個人」としてもう一度立ちあがる気力があるかどうか、私はそのほうが心配です。
いっそトルシエさんでも首相にしたら、日本も変われるかもしれません。