「国産」神話の崩壊
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年10月27日
狂牛病発生は、日本人にとってショックの大きい事件でした。牛肉を食べるのを控えてしまった人も多いと思います。いくら農水省が、脳と脊髄などの危険部位を食べなければ安全と言っても、信用できないと感じている人もたくさんいるでしょう。
ヨーロッパであれだけ騒がれたとき、狂牛病は対岸の火事だと思っていた人がほとんどでした。牛肉は「国産にしようか」ぐらいですんでいたでしょう。ところがその「頼りの国産牛」が必ずしも安全ではないという事実を突きつけられたのです。
「国産」といってもどこまで国産なのか、実はそこに今回も含めて大きな問題があります。たとえば牛を育てる飼料などの原料はほとんど輸入に頼っているといいます。豆腐が輸入大豆を原料にしているのと同じことです。加工食品だけでなく、穀物そのものの種が輸入されているケースもたくさんあります。
そのような意味では、「国産」だから安全というのは実は単なる「神話」あるいは「思いこみ」にしかすぎないとも言えます。ということは、われわれ消費者にとって、ヨーロッパ、アメリカあるいはオーストラリアで起きていることは、実際には自分たちの身の上に降りかかっていることでもあるのです。
薬害エイズ事件でも、アメリカで血液製剤によるHIV感染が問題になったとき、日本政府が自分のところに関係のない出来事だとしか考えていなかったことが根本的な原因でした。血友病の患者もアメリカから輸入された原料から自分たちの血液製剤が生産されていることを知りませんでした。
どうもわれわれ日本人は、外国で生産されたものはいい加減で、国内で生産されたものは品質や安全性が十分にチェックされていると思いこんでいるのかもしれません。
しかし、目に見えない形で外国産の原料が使われているものはいっぱいあります。加工食品はほとんどそうだと言っても言い過ぎではありません。
それに日本で作られた原料だからと言って、それが安全であるという保証はないのです。なぜなら、農薬や化学肥料、防腐剤、防カビ剤、殺虫剤、もろもろの分野で日本が世界的に見ていちばん厳しい規制をしているわけではありません。
もちろんこういったものを100%規制し、有機農法以外のものをすべて市場から閉め出してしまえば、今よりも安全かもしれませんが、そのコストは膨大なものになるでしょう。端的にいえば、スーパーで買う野菜の値段が何倍にもなってしまうかもしれないのです。私たちに必要なことは、何がどうなっているのか、事実関係をまず知ること、そしてそこに伴うリスクは何か、自分はそのリスクを受け入れるのかどうかをよく考えてみることではないでしょうか。