「大義」の喪失
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年9月15日
11日の夜からテレビに釘付けになっていた人も多いのではないでしょうか。テロリストに乗っ取られた2機の旅客機が突っ込んだニューヨークの世界貿易センター。そしてワシントン郊外にある米国防総省も標的となりました。いまだに正確な犠牲者の数はわかりませんが、5000人を下らないのではないかと思われます。
テロリズムとは、政治的な目的をもった行為です。アラブのテロ組織の目的は、イスラエルによって「奪われた」パレスチナの土地を奪い返すこと、そしてイスラエルの背後にいるアメリカをアラブから追い出すことです。
テロが政治的な行為である以上、自分たちの行為が反発を招いてしまえば、全体にとってマイナスでしかありません。だからテロをするにもルールがあるはずなのです。戦争にもルールがあります。明文化されているものもあるし、暗黙の了解もあります。もちろんルールが無視されることもあるけれども、戦争にせよテロにせよそれは政治的な行為ですから、無視すればそのしっぺ返しをくらいます。
その意味で今回のテロは、彼らに対する非常に大きな反発を招く、最悪の行為だったと思います。彼らにとって米国本土を攻撃するという象徴的な意味はあったのかもしれませんが、これで彼らの「大義」を支持していた人たちすら離れてしまうでしょう。
はっきり言ってしまえば、彼らは人間として超えてはならない一線を超えたのであり、そのために「アラブの大義」すらも危うくしてしまいました。アメリカが非常に強い姿勢で彼らに報復すると明言できるのは、基本的にそこに理由があります。かつて湾岸戦争のとき、サダム・フセインを擁護する国がどこにもなかったように、彼ら(オサマ・ビン・ラディン一派)をかくまう国はどこにもないでしょう。
われわれ日本人は、こういった国際テロとはほとんど無縁でした。しかし今回の事件では、だからといって日本人がテロの対象にならないという保証がないことも明らかになりました。個々の防衛ということもさることながら、そういったテロ組織に対してどのような姿勢で臨むのか。われわれも覚悟を決めなければなりません。