民営JRのコメ破り
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年7月21日
アメリカ米を使った駅弁が発売されました。もちろんコメは自由に輸入できるわけではないので、向こうで弁当にして冷凍輸入するそうです。弁当の価格を安くして何とか売り上げをために、高い国産米を使わないですむ方法はないかと、JR東日本の子会社「日本レストランエンタプライズ」が考え出したものです。
先日、共産党の政見放送を聞いていたら、「安全な食料を、輸入は制限して」と言っていました。いかにも農協が喜びそうな文句ですが、本当に輸入食品は危ないのでしょうか。JRの例でも、アメリカで有機農法で育てたコメを使っているというのが売り文句でした。
かつてある農業団体の人がこう言ったのをまざまざと思い出します。「外国のコメは日本のコメと違うから、日本人の口にあわないよ」。だから輸入制限を緩和する必要はないと主張したのです。
でもこれはヘンだと思いませんか。消費者の口にあうかあわないかを、農業団体が決めることはないでしょう。別にコメが足りないわけではないので、まずいと思えば日本の消費者は買わないだろうし、まずくても安いから買うという人もいるでしょう。
JRも民間会社になったから、子会社も含めて一生懸命にコストを削減しようとしているわけで、その知恵のひとつが「アメリカ米駅弁」であるわけです。消費者が、安くてもこの駅弁はだめだと思うのか、そうでもないのか。それはこれからの努力にかかるわけですが、少なくとも農業団体が「抗議」するのはおかしいですね。国産米の消費を増やそうとするなら、品質や価格などの市場努力をすべきなのです。
こういう話をすると、時々いわゆる「食料安保」論が顔を出します。日本は先進国の中で自給率が最も低い国で、これは安全保障上問題であるというわけです。たしかに実態的には日本の食料自給率はおそろしく低いんです。国産の農産物とはいっても種は毎年アメリカから来ていたり、国産の牛肉といっても飼料はすべて輸入品であったりするからです。
でもだからといって、国際価格の何倍もの値段で国産米を保護しなければならないということには直結しないと思います。コメという聖域もそろそろ改革の対象ではないでしょうか。JRの「O-bento」を見ながらそんなことを考えました。