小泉首相を支持する有権者のジレンマ
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年6月30日
6月24日に行われた東京都議選で、自民党が50議席という「勝敗ライン」を3議席ほど上回って勝ちました。これが小泉ブームの影響であることは明白です。昨年来、県知事選でほぼ連戦連敗だった自民党にとっては、7月の参院選に向けて大きなはずみになったはずです。
有権者が小泉総理大臣の「聖域なき改革」を支持していることも明らかです。わかりやすい言葉で自分の考え方を表明する姿勢があるからこそ、国会中継をワイドショーでも取り上げています。
でもおかしなことにこの小泉内閣の改革路線に反対する最も大きな勢力は、与党である自民党の中にいるのです。道路財源の問題をめぐって抵抗しているのは、主に自民党主流派の橋本派です。
つまり改革を支持する有権者は、同時に改革の抵抗勢力がいる自民党も支持するというジレンマに陥ることになります。候補者を直接選ぶ選挙ならともかく、参議院の場合は比例選挙区もあり、その分だけジレンマが深くなります。
もっとも、ジレンマに陥っているのは、有権者だけではありません。自民党自身も内部に大きな亀裂を抱え、近い将来に分裂する可能性もあります。小泉さんの支持率が急落でもしないかぎり、自民党は小泉さんを総理の座から降ろすことはできません。
そして小泉内閣が改革路線を推し進めれば推し進めるほど、いわゆる「抵抗勢力」の地盤も切り崩されることになります。言葉を換えれば、自民党が勝てば勝つほど(そして小泉改革が進めば進むほど)、旧来の自民党を支えてきたシステムが壊されるのです。小泉さんが勝つことが、与党である自民党のシステムを破壊するというのは、たいへんな皮肉ではないでしょうか。
この秋には、景気と予算編成をめぐって、改革派と守旧派の党内バトルが繰り広げられるという見方が強まっています。来年度予算の編成でどのような方針を打ち出すのかは、旧来システムに乗っている守旧派にとって死活問題であるからです。小泉総理はここで解散=総選挙という手段に訴えるかもしれません。
そうなると、われわれ有権者は、多少のリスクはあっても小泉改革を支持するのか、景気の見通しがたつまで改革を一時中断して財政で公共投資をするのか、という選択を迫られることになるでしょう。
実際に改革の痛みを経験していないわれわれは、自分の身の回りに改革の余波が及んできたとき、それでも「改革」を支持できるのでしょうか。参院選、ひょっとすると年内にも行われる総選挙で、われわれ有権者はそのあたりの覚悟を迫られるかもしれません。