日本が歩む多民族国家への道
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年6月23日
厚生労働省が発表したところによると、一人の女性が生涯に産む子供の平均が、2000年は1.35人になりました。過去最低だった前年は1.34人ですから、ちょっと上回ったわけです。もちろんこれで少子化に歯止めがかかったとはとても言えません。単純にいえば、女性が生涯で2人の子供を産んで、はじめて再生産になるからです。
日本が近い将来に直面する問題のひとつが、少子高齢化です。人口構成が高齢者にかたよってしまうと、もちろん年金財政がパンクします。年金は、後ろの世代が前の世代を支える形で運営されているため、少ない人口で多くの人口を支えることはできません。支給開始年齢の後送り、あるいは支給額の削減といった手段だけでは、とても支えきれない日がきます。
少子高齢化だけでなく、人口そのものが減ってくる時代になると、これは年金とか言うより、大げさにいえば「国の存亡」そのものに関わってくる問題です。早い話が人口が減少している国が豊かになった例は、世界史上存在しないのです。人口の増加は労働力の源泉であり、また市場を確保することです。市場が縮小してしまえば、産業も育ちません。
小泉内閣の男女共同参画会議では、働く女性の「仕事と子育て両立支援策」として、2004年度までに保育所の入所児童数を15万人増やし、「待機児童」をゼロにするという提言をしました。これを小泉首相は「暮らしの構造改革」と呼んでいるそうです。
この支援策の主眼は、少子化対策ではなく、働く女性の環境改善です。たしかに、仕事と子育ての両立ができれば、子どもを産みやすい環境を作ることにもなりますが、それでも人口に影響を与えるほど増えるとは思えません。ここ最近の少子化の主たる原因は、結婚率の低下なんですから(一夫婦あたりの出生率は2人以上を維持しています)。となれば、われわれ日本人はいよいよ本格的に移民を受け入れることを考える必要があります。今まで均質的であることを前提としてきた日本が、多民族国家に変わるわけです。
そんな時代になると、日本人が当然と考えてきたことも大きく変わらざるをえないでしょう。そういう社会もまた楽しいかもしれませんが。