16時30分の開場とともに、小走りで入場する女性ファンたち。観客席には、互いを気遣いながら並んで座る初老のご夫婦や、元気な小学生の姿も。ファンクラブのみなさんのおしゃべりに花が咲き、上妻宏光さんを「アガッチ」と呼ぶ声。
オープニング。「三味線を習う子どもたちと古典楽曲を共演します」という紹介とともに登場した、上妻宏光さんと5人の子どもたち。制服姿の中高生が3人(内、女子1人)と、小学生らしき男の子が2人。きびきびとした動作で各自の場所に座り、姿勢を整えて演奏スタート。曲目は「津軽じょんがら節(六段合奏)」。六段合奏というのは、津軽じょんがら節の基本的なアレンジで、初心者が最初に覚えるピアノなら「バイエル」のような存在だそうです。
6人は呼吸もピッタリ。聞き覚えのある津軽三味線よりも、さらに元気で迫力のある生の音色は、もっと大勢で演奏しているかのようなボリューム感。まるで初めて耳にする楽器のように新鮮な響きです。あんなに小さな子が、こんなふうに弾けるなんて、と感激するうちに、共演は終了。会場からは盛大な拍手がおくられ、少し照れたようにお辞儀をする子も自信たっぷりの表情の子も、名残惜しそうに舞台を後にします。
変わって登場したのは、上妻宏光さんとバンドメンバー。ブルーのライトの中、ハイスピードでエッジを利かせながらも滑らかに奏でられる「In the sky」。聴いていると、どこまでも青い大空に引き込まれそうな感覚になります。
続く「悲しみの果て」は、かすかにラテンの香りが立ちのぼる哀愁を帯びた曲調。切なく泣いている楽器が津軽三味線であることに驚かされます。ギターのようだけれど全然違う、聴いたことのない音色。
「この曲では、演奏にバチを使わず、エッジのないやわらかさを表現しました。僕のサウンドの新境地です」と上妻さん。演奏中は、全身をしなやかに使ってグルーヴしながら、それがあまりにもキマッているため、何も寄せつけない雰囲気ですが、話し始めると大変気さくな印象を受けます。
その後、過去のアルバムから2曲。中でも「Solitude」は、どこかビル・エヴァンスの「Alone」にも通じる透明な哀しみが漂う、美しい楽曲。三味線とギターとシンセサイザーが、それぞれ質の違った孤独を泣き明かすようなパフォーマンスに、観客からため息がもれる。
時折、目を閉じて演奏する上妻さん。音に集中しているのでしょうか。三味線を見ていると、どこからこんなに美しい音が出ているのだろうかと不思議な気分になります。これが津軽三味線なんだと改めて思うと、「日本にこういう楽器があってよかった」としみじみ。
「僕が10代のころは、三味線をギターのように弾こうとしていました。でも今は、日本の三味線というものを日本から発信していきたい」。すでに今年、アメリカ東海岸での公演も決まっているそうです。また、今後コラボレーションしたいアーティストについては、「自分から発信して、興味を持ってくれたアーティストとどんどんセッションしていきたい。たとえば、昔から大好きだったエリック・クラプトン、フラメンコギターのパコ・デ・ルシア、日本ではギターのCharさんとか。そういう方と共演したいですね。きっと実現できると信じています。ギターには出せない独特な三味線の個性や良さを表現していけたらなと思います」。
エンディングは、新作『Beyond』のメイン楽曲「暁の光」。明けていく夜、雲の間から広がる光、昇る太陽、そして新しい地平線。そんな雄大な光景が浮かび上がります。渾身の力を込めたに違いない、パワフルで躍動感あふれる演奏に、最後まで圧倒され続けました。
どんな境界も観念も軽やかに超えてそうな上妻さん。きっと、果てしなく新境地を拓いて突き進まれるのでしょう。