AppleとOrangeの比較かもしれませんが……(2003年5月29日)
出張勝也(でばり・かつや)
株式会社オデッセイ コミュニケーションズ代表取締役社長
英語でまったく異なる種類の事柄を比較するとき、それは「リンゴとオレンジを比較しているようなものだ」(to compare apples to oranges)という言い方をすることがあります。リンゴとオレンジを比較しても、正当な比較ではないということです。
さて、以下の話もappleとorangeの比較だと、一部の方からはお叱りを受けるかもしれませんが、僕のぼやきだと思って読んでみてください。
最近のテレビ番組で、毎週楽しみにしているものが二つあります(ちょっとミーハーですが)。その一つ、フジテレビで水曜日の9時から放送している「ダイヤモンドガール」をおもしろおかしく見ています。観月ありさと原沙知絵が登場する、法律事務所を舞台としたドラマです。観月ありさのコミカルな役柄が、笑いを誘ってくれますし、なんとなくハッピーエンドを予感させるところが明るい気持ちにさせてくれます。
もう一つ、同じく法律事務所を舞台とした、アメリカの人気番組the practiceも、毎週楽しみにしている番組です。吹き替え版ではなく、字幕版を見ています。こちらは、SKY PerfecTV!のFox Channelで見ることができます。the practiceは、David E. Kellyという、非常に成功した番組プロデューサーが制作したもので、彼はこれ以外にも、Boston PublicLA LawChicago Hope、そして日本でも有名なAlly McBeal(邦題は「アリー・myラブ」)なども制作しています。ちなみに、彼の奥さんは女優のMichelle Pfeiffer(ミッシェル・ファイファー)です。
さて、これからがリンゴとオレンジの比較になります。ともに法律事務所を舞台としたテレビ番組ではあるのですが、「ダイヤモンドガール」とthe practiceでは、以下のような点が全く異なります。
- この手の番組では必ず含まれる法律事務所内あるいは法廷内議論が、前者は一般的な会話で終わっているのに対して、後者はきちんとした法律的な議論になっていること。
- 人物の存在感、厚みが全く異なること。
- 日本のドラマがほとんど1クールで終わるのに対して、the practiceは、アメリカにおいて複数年続いている番組であること。
何が根本的に違うのか。――シナリオのレベルが全く異なるのです。質的にも、また量的にも、the practiceは「ダイヤモンドガール」を圧倒しています。何シーズンにもわたって、高いレベルの質を維持してきています。もともと比較することが無理な話で、それこそリンゴとオレンジの比較になっているのかもしれません。「ダイヤモンドガール」だけではなく、日本のトレンディードラマといわれているもので、しっかりしたシナリオに基づいて作られた番組は非常に少ないのではないかと思います。理由はいくつかありますが、端的に言えば、アメリカのテレビ番組は、お金のかけ方がまったく異なっているのです(the practiceには1本当たり億単位の金がかけられているようですが、日本の民放のトレンディードラマはその10分の1、あるいは20分の1程度の制作費で作られているのではないでしょうか)。
もちろん、アメリカのすべてのテレビドラマが、David E. Kellyのように力のある制作者によるものではありませんし、多額の予算をかけて作られているわけでもないでしょう。ただ、ちょっと悲観的なことを書かせてもらえれば、われわれ視聴者は、日本のトレンディドラマを見ている限りは、ほとんどが安直なファーストフードしか食べさせてもらえていないということです。
David E. Kellyに関して付け加えれば、ドラマの制作に関わるようになる前の数年間は、彼自身が弁護士をしていたそうです。David E. Kellyの番組には、使いたくなるような表現が結構多くて、英語学習の教材としてもいいのではないかと思っています。