Weekend With Kai(2003年3月6日)
出張勝也(でばり・かつや)
株式会社オデッセイ コミュニケーションズ代表取締役社長
僕が一番英語を一生懸命勉強したのは、実は、中学生の頃でした。四国の太平洋側にある、とても小さな田舎町に育ったのですが、まわりには英語を母国語とするような人はもちろんおらず、町の住人で外国に行ったことのある人さえも数えるほどでした。NHKのテレビやラジオの英会話番組、町にひとつかふたつしかない映画館で見るアメリカ映画が、生の英語を聞く唯一の機会でした。
その頃の僕にとっては、NHKの英会話番組の講師の方々は、教祖様のような存在でした。「英語上達の秘訣などありません。中学レベルの英語の教科書を何百回と音読することです」という言葉を信じて、愚直なまでに教科書を、まさに何百回というほど、繰り返し、繰り返し、音読しました。
僕の中学校の英語の教科書には、“Blackie”という名前の黒い犬が出ていました。今、僕の家では黒虎毛(Black brindle)の甲斐犬(かいけん)を飼っているのですが、それは中学生の頃から、いつか自分の“Blackie” が欲しいと思っていたからかもしれません。ただし、僕の犬の名前は、“Blackie”ではなく、とてもシンプルですが、「カイ=Kai」という名前です。かつては、黒のLab (ラブラドールリトリーバー)に関心があったのですが、アメリカのような、大きな庭や居間がある家に住んでいるわけでもなく、なんとなく自分の生活には合わないかなという気持ちもあり、日本犬に傾いていきました。
カイといっしょに家のまわりを一時間ほどwalkingすることが、週末の楽しみです。僕は、世界で一番有名なテーマパーク、かのディズニーランドと目と鼻の距離に住んでいるのですが、そのまわりを一周ほどすると、ちょうどいいwalkingになります。大学の頃の知人と久し振りに話をしていた時、まさにアメリカの文化と資本主義の象徴とも言える、このテーマパークのそばに住んでいることを伝えると、「君は本当にアメリカが好きなんだね」と揶揄(やゆ)されました。実は、この住宅地には消去法の結果住むことになったのですが。
週末は、外に出る時も含めて、いつもカイといっしょです。買い物に行く時も、必ず玄関まで来て、車に乗っていっしょに連れて行ってもらうことを当然のように要求してきます。
昨日の土曜日も、お昼にはカイといっしょに、一時間半ほど、テーマパークのまわりを早足で歩き、夜はそのテーマパークに隣接してあるCinema Complexで『戦場のピアニスト』という映画を観ました。ナチスに占領されたポーランドで、音楽だけを支えに生き抜いたピアニストの物語です。強く平和を願う、ロマン・ポランスキーのメッセージが心に響いてきました。
アメリカは、イラクへの攻撃を今すぐにでも始めたくて仕方がないようです。中東の鬼っ子は、本当に現代のヒットラーなのでしょうか? カイといっしょに過ごす平和な週末を感謝すると同時に、歴史や国際政治の現実にも目隠しすることなく生きていきたいと思っています。